プロペラ飛行機乗りのマルは、どこでも自在に飛んだ。
ある日、大海原を低空飛行中、海の中を飛んでみたくなった。
ぐぐぐと高度を更に下げ、ついに海中に入った。
海中の飛行は、思ったよりも快適だった。小さな魚たちは驚いてマルを囲んだ。
そこへ巨大な鱶がやってきた。マルは必死で速度を上げた。鱶が追いかける。
ひょいと、鱶がマルの前に回りこんで、大きな口を開けた。
マルとマルのプロペラ飛行機は、鱶の中を飛んだ。
鱶の中で、マルは迷った。どこに向かえばいいのだろう。
そのうち、飛んでいるのか、飛んでいないのかもわからなくなった。
寝ているのか、起きているのかも、わからなくなった。
ふらふらと飛行機を降りる。もう、おしまいにしようと思ったのだ。
相棒に挨拶をしようと近づく。機体を撫でる。
マルの右腕は、勢い良く回り続けるプロペラに切断された。
浜に打ち上げられた巨大な鱶の死体を漁師たちが解体している。
腹から人の腕が一本出てきて、漁師たちがどよめいた。
若々しく、なめらかな肌が残っている。どこも腐っていなかった。
少し離れたところから、片腕のない老人がその様子を眺めている。