2011年2月22日火曜日

ニュウヨークから帰ってきた人の話

ニュウヨークに行ってきたという人が訪ねてきた。見知らぬ人である。
「それで、ご用件はなんでしょう?」
「ニュウヨークから帰ってきたのです」
「それは何度も聞きました」
「ニュウヨークに行ってきました」
「ですから、何度も聞きました。ご用は何ですか」
「用があるのはあなたのはずです。何か聞くことはありませんか?」
「は?」
「ニュウヨークのこと、知りたいでしょう?」
「いいえ、ニュウヨークのことはよく知りませんが、知りたいことがあるわけではありません」
「……つまらない男だな」
男が立ち去った後には、作り物の星が一つ落ちていた。

2011年2月14日月曜日

真夜中の訪問者

眠れずに寝返りばかり繰り返していると、机の上に並んだ星たちも同じように、コトリコトリと動いていることに気がついた。
なんだかザワザワとした夜なのだ。こんな夜は、何か起きるのかもしれない。
玄関のチャイムが鳴る。
心臓を掴まれたような驚きの片隅に「ほら、来た」としたり顔が現れる。
冷たい床をつま先立ちで歩き、ドアを開けると、羊が居た。
「あの、ご入用ではありませんか?」
「あ、そうですね。はい。是非必要です」
羊は、背負った大きな袋を置いた。
「昼過ぎに取りに来ますから、玄関先に出しておいて下さい」
「料金は?」
「星をひとつ、いただけますか?」
星は喜んで羊について行った。

袋の中には、大量の小さな羊のぬいぐるみ。もちろんウール100パーセントだ。
眠くなるどころか楽しくなってしまうかと思ったが、実によく出来ている。
八十七匹数えたところまでしか覚えていない。

「星の終わりに」へ拍手をくださった方、どうもありがとうございました。
「星の終わりに」なんてタイトルあったっけ? と検索してしまいました。
古い作品まで遡って読んでくださっているとわかると、とても嬉しいです。

2011年2月9日水曜日

自分によく似た人

喫茶店で珈琲を運んでくれたウェイターの手。
「あーした天気にしておくれ」と、下駄を飛ばす子供の足。
「え? よく聞こえないよ」と、口元に寄せられた老人の耳。
「出発進行」の運転手の声。

今日出会った人々は、すべてどこかが自分によく似ていた。
ベッドに入ると、体がバラバラと分解されていくような感覚に襲われた。
睡眠の海に溺れて、集めることができない。

2011年2月4日金曜日

THE WEDDING CEREMONY

「さて、結婚式が迫ってきた」
お月さまはウキウキと楽しそうだ。
「結婚式に呼ばれているのですか。どなたの?」
「決まっているじゃないか、キミのだ」
よくよく訊いてみれば、そして、それはいくら訊いてもよくわからないのだが、ともかく、お月さまというのは、月の夫、ということらしい。
つまり、「月の人」を継ぐにあたり、結婚の儀式が必要なのだ、と。
銀河からの手紙に返事を出した覚えはない、と反論するが、お月さまの手には「YES」と書かれた葉書があった。
見飽きるくらいに見慣れた、そして好きではない筆跡で。