2024年11月12日火曜日

「雪」(2021年1月、月々の星々のテーマ)

ニクスは雪のように白い紙で本を作って売り歩く。お客は不意にニクスの前に現れて「よいタイトルだね。中を見ても?」と決まって言う。パラパラ捲って「面白そうだ。君が書いたの?」と、これも必ず聞かれてニクスは曖昧に微笑む。ニクスはペンを持っていない。雪のように白い本を、汚したくないから。

2024年11月5日火曜日

「灯」(2020年12月、月々の星々のテーマ)

少々軽薄だが口遊みたくなるメロディーが聞こえる。「ポカポカ印の灯油販売車です」あぁ半年ぶりの灯油屋か。春まで毎日聞くことになるだろうが、販売車は何年も見ていない。この辺りでは焼き芋屋も竿竹屋も売り声だけが残っていて、今も変わらず夕暮れの町内に響く。灯油屋も大方そんなところだろう。