超短編
遮断機の竿の隙間をするりと抜ける何かを見た気がした。電車が通り過ぎるまでの数十秒間が数分にも思われた。線路上には甘やかな匂いだけが残っていた。私は香水を知らない。 警告色を越えるのでもなく、潜るのでもなく、僅かな隙間から向こうへ行ってしまった誰かを羨む。同じ香りにいつか逢いたい。
+++++++++++予選通過 佳作受賞