懸恋-keren-: 2月 2023

2023年2月28日火曜日

大切なティーカップが割れた。紅茶を入れたまま、微かに「ピキッ」と鳴いて、真っ二つに割れた。よい香りの水溜りが広がる。捨てられず、いつも通りに棚に仕舞った。翌朝、棚には二つの小ぶりなティーカップがあった。割れたのではない。分裂し、ペアになったのだと理解した。今日、初めて恋人を招く。

実は、殆どの天体が天秤で均衡を保っているのだ。ほんの僅かな変化で、軌道やら公転周期やらが変わってしまうから、夥しい数の分銅が宇宙には存在している。少し前、月と釣り合う分銅が少し多くなり、天秤が揺れた。少し前だが、人間の時間では太古の昔だから、まぁ、あまり気にせずともよかろう。

遮断機の竿の隙間をするりと抜ける何かを見た気がした。電車が通り過ぎるまでの数十秒間が数分にも思われた。線路上には甘やかな匂いだけが残っていた。私は香水を知らない。警告色を越えるのでもなく、潜るのでもなく、僅かな隙間から向こうへ行ってしまった誰かを羨む。同じ香りにいつか逢いたい。

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予選通過　佳作受賞

節分の夜、撒かれた大豆の数％は宇宙に向けて飛び立つ。更にその内の数％は大気圏をも通過、強運の大豆は星々に「逆流星」「偽星」と呼ばれ、大変に評判が悪い。何しろ当たると激痛なのだ。鬼の仮面をするとよいらしいと星たちの間で噂になったが、言うまでもなく実行した星ほど大豆によくぶつかった。

恋人の舌は深く裂けている。「ひいじいちゃんが同じ舌だったんだって。会ったことないけど」「もし会えたらどうする？」と問う。分かれた舌をあべこべに動かしながら「あっかんべー！で挨拶する！」と元気のよい答えが返ってきた。あっかんべーのままの顔が近づいてくる。今はまだ、くすぐったいだけ。