いつもの喫茶店に行くと少女が働いている。年は13、14といったところだろうか。まだ慣れない様子で、引きつった顔でコーヒーを運んでいる。
「ありがとう、いただきます」
と言って受け取ったら、心底驚いた顔をして慌てて引っ込んでしまった。
店主の親父によると、酷く無口なこの少女は、学校に行きたがらないそうで、家で膝を抱えてるよりマシだろうと店の手伝いをさせていると。店主の実の娘なのかどうかは聞きそびれた。
慣れてくると、少女は私の読んでいる本を覗き込んでくるようになった。読み終わった本をやるとペコリとお辞儀をして、奥へ引っ込む。
いつの間にか、店主の親父よりも旨いコーヒーを出すようになった。もう少女と呼べないほどに大人になったのに、声はまだ聞いたことがない。
本は一冊も返してもらっていないが、律儀に感想文を手紙に書いて寄越す。手紙の少女は饒舌だ。どこに潜んでいるのだろうかと、声を探してやりたくなる。少し意地悪い気分で。