懸恋-keren-
超短編
2013年5月22日水曜日
朝靄の向こう側
いつも夢のなかでしか会うことが出来ないピエロに、「どうしたら本当に会える?」と尋ねたことがある。
本当に会いたかったのだけれども、ピエロを困らせる気持ちも幾分あった。私はまだ子供だったのだ。
ピエロはしかし、少しの戸惑いも見せなかった。その赤い鼻が揺れたり、大きな口が震えることはなかった。
「朝靄のうちに目覚めて、そこを通り抜けてきたら、会えるよ」
ピエロは大きく手を振って、私の夢から出て行ったきりだ。
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