プシケは、その日も電線を見上げながらトボトボと町中を歩いていた。それが彼の仕事であるからだ。傷ついた電線を見つけたらゲシュトットさんに報告する、というのがプシケの仕事だ。
その日は珍しく、傷ついた電線は一ヶ所も見つかっていなかった。プシケは少し退屈しながら上を見て歩いていた。
そんなプシケの視界に、白い楕円形の物体が入った。
「飛行船だ」
プシケは小さな声で言った。
飛行船は、一機ではなかった。青空に飛行船が犇めき、のんびり飛んでいた。すぐにプシケの視界は、飛行船で埋め尽くされた。
白い飛行船が眩しくて、電線が見えない。今日の仕事は切り上げだ、とプシケは決めた。サラミを買って帰ろう。
しかしゲシュトットさんに観察続行不能の理由を報告せねばならない。
プシケは日誌にこう記した。
「飛行船群の襲来につき」ゲシュトットさんはきっとカンカンに怒るだろう。けれど、何も嘘は書いていないさ。
プシケは、もう一度、空を見上げた。飛行船群はゆっくりゆっくり、東へ進んでいるようだ。