2010年2月9日火曜日

さびしい海で泳いでいると、女の子が砂浜を一人で歩いているが見えた。うろうろと、砂を足でいじってみたり波間を覗きこんだりしている。
僕はもう少し泳いでいたかったけれど、陸に上がって聞いてみた。
「何か探しているの?」
海水が耳に入ってしまったのだろう、自分の声がくぐもっている。
「時計を失くしてしまったの」

女の子の時計は見つからなかった。僕たちは、夕日が沈むのを眺めてから、さよならした。

翌朝になっても、耳の水は抜けていなかった。こんなことは初めてだ。僕は潜水は下手だけれど、耳抜きは得意なのだ。
耳の中で水がぴちゃんぴちゃんと小さく波打つのがわかる。どうにも煩わしいので、ベッドから起き上がることができない。目を開けていることもできず、かといって眠るでもなく、耳の中の水のことばかりを気にしていた。
そうしているうちに、ぴちゃんぴちゃんが、チクタク、になった。

もう一度、海に行ったら女の子に逢えるだろうか。
あの子ならきっと、僕の耳の中の時計を取り出せるはずだ。