2008年11月30日日曜日

ら #f2bf84

羅針盤がラトビアの方角を示すので、ライターの火を頼りに乱気流の中を歩く。
まもなくラグビーボールが飛んできた。慌ててキャッチすると中から螺旋状の老酒がたらたらと垂れてきたので、ラッパ飲みする。

ら #f2bf84

2008年11月29日土曜日

黒い羊

 やっと手に入ったの、毛糸。そう、黒い羊の。予約して、何ヵ月待ったっけ?
 六日前に届いて、大急ぎで編み上げて、すぐに達也にプレゼントしたの。もちろんマフラー。すっかり暖かくなっちゃって、もうマフラーなんて季節外れだけど、たっくん、すごく喜んでた。こめかみがひくひくしてた。
「さっそく、巻いてもいい?」って訊くから
「早く早く!」って、おねだりしちゃった。
 首に掛けるとすぐに、ぐっとマフラーが絞まった。達也、みるみるうちに顔が真っ青になって……。あっという間の出来事だった。
 黒い羊の呪い、効果バツグンだよ?祐子も試してみなよ。


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500文字の心臓 第81回タイトル競作投稿作
○3

2008年11月26日水曜日

よ #ff6600

翌週の予定は四谷でよんどころない夜遊びだ。
妖艶な幼女に用心しながら夜明けまで酔いしれよう。
翌朝、太陽が昇る頃、よろよろと浴室の壁に寄りかかり、余韻に浸りながら酔い醒ましのヨーデルを歌うのよ。

よ #ff6600

2008年11月25日火曜日

ゆ #ff3d26

憂鬱な雪が、ゆっくり揺れる。
「ゆるして。ゆるして」と揺らめく。
私は指先に落ちた雪に言う。
「赦さない」
雪は遺言のように「ゆるして」ともう一度呟き、湯になった。

#ff3d26

2008年11月24日月曜日

や #f29b70

優男が夜食に野菜炒めと焼き鳥を食べていると、闇の中からやたらと矢が飛び込んでくる。
優男が破れかぶれで焼き鳥の串を投げつければ
「止めて頂戴」
と優しい声がする。
「これには、やむにやまれぬ事情があるのです」
今度は闇の中から槍が飛んできたので、いやはや、やりきれない。優男はやさぐれて、家捜しを始めた。

#f29b70

2008年11月23日日曜日

遠くからの星

マイナス二度の中、マフラーだけ巻いてパジャマのままベランダに出る。
眩しい。夜が申し訳程度に星と星の隙間を埋めている。
ぼくはすぐにきみを見つけた。きみは目立つわけでもなんでもなくて、砂を撒いたような無数の星屑のうちの一粒で、今夜みたいな晴れた寒い夜にしか逢えない。
明日は逢えないよ、ときみが言う。何故かと訊ねると、出張だからときみは答えた。
それじゃあ明日の夜もぼくはベランダに出るよ。きみがいないことを確かめるために。
そう言ったら、きみはなぜか赤く光った。
明日も晴れるといいなぁ。

2008年11月22日土曜日

も #f2707c

もちろん問題はモアイが木星のモンスターだったということだ。モアイがもたらしたものは、ものすごい数の物語だけではない。もしも木星が脆くなったら、物語もろとも元の木阿弥だ。
問題解決策を模索している。モナリザにモヘアを巻いてモニュメントになってもらおうと思うのだが、如何かね。

#f2707c

2008年11月20日木曜日

ピース!

朝起きると、トキメキが躰を支配していた。
もしや恋でもしたのだろうかと考えてみたけれど、女といえば、母親とバイト先のおばちゃんの顔しか出てこない。女っ気がないのは俺が一番よく知ってるんだ、チキショ。
何かいい夢でも見たっけ、と考えてみたが、さっきまで見ていたのはバイトに遅刻する夢だった。ちょっと焦って時間を確認する。大丈夫、寝坊はしてない。
夢でいい思いをしたわけでもないなら、このトキメキはなんだ。苛立ちさえ覚えるのに、トキメキはどんどん膨らむ一方で、着替えていてもカレンダーを見てもドキドキワクワクソワソワ。
この理由なきトキメキの理由をなんとか見つけだしてやる、待ってろよ!
そう思ったら、また胸がキュンとした。

まっすぐまっすぐ、と唱えながらドリルを廻す。
それでも穴はまっすぐにならない。

あなたの耳に穴をあけた。小さなドリルで穴をあけた。
白くて柔らかい耳たぶが、ギリギリとドリルで削り掘られた。
削られた耳たぶの欠片と血液が、ドリルを持つ私の指先を汚す。
あなたの抑えきれない呻き声が、ドリルを伝ってわたしの中に心地よく響く。

ピアスは斜め上に向かって耳たぶを貫いた。全然まっすぐじゃないけれど、しゃくりあがった素敵な角度だ。

2008年11月18日火曜日

め #ffb200

メシアよ、滅茶苦茶な飯をお召し上がりください。
メニューは、面倒な麺と、メタリックな目玉焼き、目障りな明太子、そして迷惑なメロンです。
メランコリックなメイドが給仕します。では、私めはこれにて、ごめんください。メルシーボーク。

#ffb200

2008年11月16日日曜日

む #596044

ムード満点にするのは難しいことじゃない。六日間無為に過ごせば、無性にむらむら、胸はむかむか。むしろ睦まじく夢中になれるだろう。

#596044

2008年11月15日土曜日

み #f9bf00

「見事なミイラを見つけてくれ」と見送られた。
見境無く未開の三日月をミサイルで目指し、ミイラ探し。
ミンクの毛皮とミニスカートで、ミイラを魅了してやるんだから。
でもミイラは滅多に見つからないから、ミラクルでも起きない限り未来永劫ミイラ探し。

#f9bf00

2008年11月14日金曜日

ま #ea8c00

待ち合わせに間に合わないから、真っ赤なマントを広げて摩天楼を飛ぶ。
まっ逆さまなんてヘマはしない。舞い降りると、きみはびっくり眼で「魔法使いなの?」と問う。
まだまだ見せるよ、摩訶不思議なまやかしを。

#ea8c00

2008年11月12日水曜日

ほ #b58954

放物線に惚れた。本物の放物線なら、ほだされて滅びるのも本望だ。ほんの少しでもほほえんでくれたらいいのに。
本能的に、星に向かって吼えたら、火照りだけがが増えた。

ほ #b58954

2008年11月11日火曜日

ジングルベルが鳴る前に

サンタクロースは世の人々がクリスマスを思い浮かべる前に、すべての支度を済ませなければならない。
なのに、年々イルミネーションの点灯は早くなるから(おまけに派手になっているときてる!)、サンタクロースは早々にその支度を終えて、暇を持て余している。
トナカイたちもずいぶんと前から起こされソリに繋がれる。
サンタクロースもトナカイも、プレゼントまでもが待ち草臥れて、イヴの晩にはぐったりだ。

主の平和、新鮮なクリスマスを望みなさい。

2008年11月10日月曜日

へ #f7b2c9

ヘ音記号になった蛇は、ヘリウムガスを吸い込み、変幻自在の声でヘビィメタルを唄う。

へ #f7b2c9

2008年11月8日土曜日

ふ #ddb277

古い風呂敷に封印された笛は、不思議な笛だ。
フランスで双子の船乗りが吹いていたが、不慮の踏切事故で笛は汽車に踏み潰された。
再び双子の船乗りの手に戻ったが、笛は複雑な不満を訴えて、冬にしか吹けなくなった。冬の笛の音は不気味で不愉快だった。
双子は笛を風呂に入れ、ふやかして拭いた。それからふんわりと風呂敷に包み、封じることにしたのだ。
以来、笛は風呂敷の中でふにゃふにゃの腑抜けになっている。

ふ #ddb277

2008年11月7日金曜日

ひ #326c11

ヒロインは緋色に光るヒヨコを拾った。
ヒヨコはひ弱なくせに頻繁に冷や水に浸ろうとするから、ヒロインはヒヤヒヤした。
緋色のヒヨコは昼下がりの広場をひとりで歩いていたときに、柊のトゲに引き裂かれ非業の死を遂げた。緋色のヒヨコはたちまち火となり、柊は悲鳴をあげ続けている。

ひ #326c11

2008年11月5日水曜日

DOLL・EYE

アクリル製のその眸に意思はない。だから私は残酷になれる。
鋸を引き、粘土を詰め、床に転がし、足の指でねぶる。
ふと、視線が交わる。青い光彩が、きゅっと縮む。

2008年11月4日火曜日

は #ffdb5b

果たして、早寝早起きは排他的になりうるか。と、八十八夜に考える。指に挟んだ葉巻から灰が落ちる。
遥か昔の初恋の人のはにかむ顔は半永久忘れないはずなのに、排他的早寝早起きについては計り知れない発想力でも博士号は取れないだろう。
ハミングをしながら歯磨きをするほうがハイカラだ。歯磨きが済んだら、早く寝よう。

は #ffdb5b

2008年11月1日土曜日

マリーの部屋

十二の誕生日に、マリーは「博士」からモノクロの薔薇が写った大きなポスターを贈られた。
窓のない壁、白いベッドとデスク、映りの悪い古い白黒テレビがあるだけの部屋が少女の世界の全てだった。大きな平面の薔薇は、生まれて初めて得た装飾だった。
まもなくマリーは「赤」を知り、ポスターの薔薇の花びらを塗ることを覚える。己が股間をまさぐった手指で薔薇を撫で続けた。数日して赤が少なくなると、深く指を入れて抉り取ろうとした。マリーは薔薇が赤いとは知らない。赤の他も知らない。けれども、そうしていると重怠い身体が鎮まるような気がした。
巨大な薔薇の花は月毎にその赤を上塗りされ、甘くすえた臭いを放つ。