桃割れの娘が一糸纏わぬ姿で満開の紫陽花の傍らに立っていた。娘は見事な黒髪なのに碧眼で、私はその容姿に強く惹き付けられた。
紫陽花はさっきまでの雨で濡れている。娘はにわかに紫陽花の花を枝から折り、身体に擦り付けはじめた。雨粒は花から娘に移り、若い肌の上で丸い露となる。あの露を舐めたら娘はどんな顔をするだろう。少しずつ近寄っていく。
娘はひとつ、またひとつ、と紫陽花の花を折り、身体中を花で撫でる。肌は露でますます輝き、足元は青紫の花に埋もれていく。ついに私は娘の手を遮りひとつ花を折ると、彼女に差し出した。私に気づいた娘は目を見開き、顔をみるみる上気させた。いつのまにか私も素裸になっていた。
娘の肌は火照っているのに、その肌を濡らす露を舌で掬うと、氷かと思うほど冷たかった。白昼夢にしては、あまりにも痛い。
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500文字の心臓 第71回タイトル競作投稿作
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