超短編
古い書を譲り受けた。「雨」と書かれたその掛軸を掛けると、今まさに磨っているいるかのように墨の香りが漂う。外では雨が降り出して、掛軸の雨は滲み、墨の香りが一層強くなる。驚き、慌て軸を巻き戻し、箱に仕舞った。不気味な書に懲るかと思いきや、毎夜、墨の香りに酔いしれながら肴を摘んでいる。(140字)
唐草の文様を辿っていた。漠然と牡丹、概ね葡萄、ひょっとして忍冬……指先でくるくるなぞっているうちに、私も文様の中に取り込まれてしまった。唐子の姿で蔓を掻き分け歩く。さらに蔓から蔓へ。このまま行けば、きっと古代オリエント! と息巻いたのも束の間、蔓に巻き取られる。首は絞めないでね。(140字)