超短編
島には本屋も図書館もないけれど移動図書館なら来る。図書館船だ。船長兼、館長の趣味丸出しの図書館船は少し妖しくて、大人は乗りたがらない。陽射しと潮風に当たりっぱなしだから本はゴワゴワしていて色褪せている。そこでたくさんの言葉を覚えた。デカダンスは大きい箪笥のことじゃない、とかね。
雨のビート。同心円に広がる水の高まり。雨粒が水溜りに作る波を見つめる。その波紋の中心から宇宙船が出でくると長い間、信じていた。どこかで聞いたおとぎ話だと思っていた。今、真剣な眼差しで小さな宇宙船を水溜りに浮かべる恋人に傘を差し掛ける。静かに沈む宇宙船。おとぎ話なんかじゃなかった。
旅人が筏でやってきた。よく出来た筏だと褒めると「差し上げます」という。「新しい舟を作ります」と、どこからか大きな笹の葉を採ってきて器用に笹舟を作り、ささやかに出航していった。その人は昔、豪華客船の船長だったそうだ。舟を簡素にしながら旅を続けているという。さて、私は筏で向こう岸へ。