2020年8月30日日曜日
2020年8月14日金曜日
手紙を書こう
通信の罰則がに軽微になったとはいえ、立派な身形の人のような「元旅人」は旅人の監視役を命じられたという。ただ、立派な身形の人は模範的な旅人だったとして、引き受ける旅人を選ぶことが出来たのだと、静かに語った。
「ありがとうございます。お礼を言うのも奇妙なことですが……」立派な身形の人は微笑むだけで言葉では答えなかったが、続けてこう言った。
「万年筆を返してもらいました。とても大切なものだったのです。二本ありますから一つ差し上げましょう。手紙を書くでしょう? 直ぐにでも」
そうだ。太ももにメモした若者の名前が消えぬうちに、今年の手紙を。
来年は、美しい人に。故郷に戻った美しい人の声を聴くにはどうしたらいいだろう。本当の声は挽肉を捏ねるような声ではないはずだから。
そして次の年は、オニサルビアの君に。老ゼルコバを偲んで、手紙を書こう。
手紙を書こう。
(完)
2020年8月11日火曜日
監視する人
電話ボックスの扉を開けたのは、まさに立派な身形の人だった。
促されて受話器を渡す。
「この若い旅の者と赤い鳥の監視を只今より開始します」
立派な身形の人と暮らす家は、前に住んでいたところと目と鼻の先だった。すでに部屋は設えられ、立派な身形の人の住まいに相応しい家具や調度品が揃えられていた。
「年寄との暮らしは煩わしいだろうけれど、辛抱してください」
赤い鳥は、ただの赤い鳥になったが、立派な鳥籠を用意してもらって喜んでいる。
食事は交代で作ることになった。旅の影響だろう、ところどころ五感がおかしいのは戻ってすぐから気が付いてはいたが、料理はその確認には最適だった。
この感覚の変化は研究の対象にもなるということで五日に一度、ラボに通うことになった。ラボもまた、目と鼻の先にある。いや、真新しいラボだから「出来た」というほうが正確だ。どうしても移動をさせたくないらしい。
罪を犯して旅をすることになったとはいえ、いまやそれが罪というのは奇妙なことである。ただ貴重な経験をしたに違いないことは確かだ。
立派な身形の人と毎晩のように語り合っている。
通信に続いて移動が罪となった。次は何が罪になるというのか……。
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