猛スピードで走らせておいて何を言うのかと思ったが、無理やり止まって、しゃがんだ。
目の前に、見たことのある艶やかな赤い電話があった。旅の始まりの赤い公衆電話。
「戻ってきたのか?」
けたたましい音に心臓が跳ね上がる。電話が鳴るのを聞いたのは生まれて初めてである。
「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者よ、受話器を取るがよい」
青い鳥が重々しい声で言った。
受話器というものがこんなに重いとは知らなかった。どちらが耳側かわからないが、取った時に上だったほうを耳に当てるほうが自然だろうと思い、そうした。
「消えず見えずインクの旅券を持つ旅の者よ」
受話器から声が聞こえる。機械を通した独特の声でやや聞き取りにくいが、紛れもなく、肩に乗る青い鳥と同じ声だった。