2018年8月26日日曜日

涙製物語

しょっぱなから泣かされる話だ。
本を読んでも映画を見ても高校野球をラジオで聞いても泣いてしまうほど涙腺のゆるい私だ。
そんな私でも冒頭三行でだらだら涙を流すのはどうかしている。
もっとどうかしているのは、涙を拭うと本の文字が読めないということだ。
眼が変調を来たしたのかと、傍らの新聞を見てみたが、大丈夫そうだ。やはりこの物語はどうかしている。
仕方なく、そして、思う存分、涙と鼻水をボタボタと頁に落とすとしよう。

2018年8月22日水曜日

八月二十二日 濡らしたり、乾いたり

猫の足跡は、濡れると現れて、乾くと消えてしまう。
だからといって、ずっと濡らしておくわけにはいかないのだ。 とても残念なことだけれど。

2018年8月19日日曜日

#FF00FF

マゼンタ色のワンピースと帽子を被った老婆が、同じ色のカートを引いて、夜の駅前ロータリーを背筋を伸ばして歩いている。
突然立ち止まったと思ったら、カートから桃を取り出してかぶりついた。
妙に濃くて鮮やかな、そう、老婆の装いとよく似た色の桃だった。

2018年8月18日土曜日

澄まし顔の向日葵

向日葵畑に人間が押し寄せる。向日葵は自慢の黄色い顔を太陽に向けて澄ましている。
向日葵畑に向日葵を見にやってくる人間の数は決まっている。
畑の向日葵の数と、きっかり同じ数の人間。理由は向日葵にもわからない。
向日葵は、やってきた人間を数えながら、夏と花の終わりが近いことを感じる。
太陽を見上げる。

2018年8月17日金曜日

読書の秋始め

八月の湿度が下がった日、本に秋の始まりを告げる。
よく手を洗い、温かいお茶を淹れ、お茶請けの菓子を用意し、本棚から本を一冊選び、椅子に座る。
一口、茶をすすり、パラパラと本を捲る。
夏の湿った空気を吸って重たくなっていた本が、秋の呼吸を始める。本棚の本たちも一斉に秋の訪れに気が付くのがわかる。
 お茶を飲み、菓子を食べ、本を一章ほど読んだところで、羊毛のはたきで本棚の埃を払う。これで本棚の秋支度が済んだ。いよいよ読書の秋の始まりだ。

2018年8月8日水曜日

8月8日 スーパープリンタイム

今日のプリンは特別だった。一口食べるごとに、どこからともなく拍手が聞こえる。それがとても素晴らしく陽気な拍手なので、得意になってプリンを食べる。するとまた拍手が起きる。高らかにプリンを食べる。盛大な拍手が起こる。
ついに最後の一口を食べ終えると、拍手喝采! 窓が軋む。いや、拍手ではない、強風だ。まもなく台風がやってくる。