2015年8月28日金曜日

八月二十八日 大佐

大佐は逃げ足が早い。二度も逃げられた。けれどちょっとホッとしている私もいる。大佐が捕まれば、私が今度は大佐に捕まって南極に連れて行かれるだろう。きっと長い長い旅になるに違いない。また、大佐のことを捕まえたくなったら、旅支度をしてから追いかけることにしよう。

2015年8月23日日曜日

八月二十三日 気怠い日曜日

気怠い日曜日に、毛むくじゃらのウサギを撫でると、風が吹く。ちょっとだけ雨が降る。少し、秋に近づく。読書が捗るのがその証。

2015年8月18日火曜日

八月十八日 墨流しをする

揺れる水面の波紋を紙に写し取る。
この模様は、時間を写し取ったのか、波紋の形を写し撮ったのか。
考えていたら、宇宙のことを考えるくらいに目が回った。
隣でウサギは夏バテで目を回している。


2015年8月16日日曜日

八月十六日 冷蔵庫

冷蔵庫は人知れず開く。お盆で帰った亡者のために、お茶を出したり、ビールを出したり。亡者へのもてなしが済むと、そっと扉を閉める。人には見つからないように、冷蔵庫は冷蔵庫なりに気を使うのだ。
が、我が家の冷蔵庫は誰に似たのか粗忽者で、去年の夏も今年の夏も、扉を閉め忘れていた。 明け方、開いたままの冷蔵庫を見つけた私は、飲みかけの缶ビールがあるのを確認した。ばあちゃんが来ていたらしい。「ショワショワしておいしい」と、祖母はわけがわからなくなってもビールを愛飲していた。もうちょっと高級のを置いておけばよかったねえ。
冷蔵庫には、電気が勿体ないし、食べ物が腐るので、ちゃんと閉まっておけとよくよく言い聞かせたのは言うまでもない。

2015年8月10日月曜日

八月十日 しゃぼん玉

しゃぼん玉がひとつ、飛んでいる。フワフワというより、ビュンビュン飛んでいる。誰かに操縦されているようだ。あたりを見回したけれど、ほかのしゃぼん玉も、しゃぼん玉を飛ばしている子も、居ない。しゃぼん玉に見えるそれは、たとえば異星から来た何かなのかもしれない。ちょっと追いかけてみたけれど、ヒュッ!と一気に上昇してキラリ光った後、見えなくなってしまった。

2015年8月6日木曜日

八月六日 指輪の入った箱

指輪が入った箱は意外と大きい。でも、軽い。箱の中の指輪は、カラカラと涼やかな音を立てながら、踊っている。今日もどこかで祝福の指輪が交わされるのだろう。だから指輪は踊り続ける。そのために、指輪の箱は、いつだって大きくなくてはならない。