情熱の舟は、乗客の情熱を吸い取りながら進む。つまり人間の情熱が燃料というわけ。
情熱を吸い取られた人間は、舟を降りる頃には目の輝きは失われ、足取りもふわふわと覚束ない。が、一度乗ってみるとわかる。身も心もずいぶん軽くなるのだ。情熱は、身体に負担が大きい。身体だけじゃない。情熱に溢れた人間は何をしでかすかわからないような輩が多いではないか。情熱は、社会にも負担なのだ。
実際、情熱を吸い取り過ぎた舟は、瞬く間に朽ちていく。舟の残骸とともに川に流れた情熱は、やがて海に出て、蒸発し、雲になり、雨となり、人々に降り注ぐ。