超短編
音楽に合わせて優雅に、だが延々と回っている陶人形に、三半規管の鍛え方を訊きたい。
子どもの頃「卵ボーロを温めたら何が生まれるの?」とよく言っていた甥に、この小さな生き物を今すぐ見せに行きたい。
彼岸まで行っても翌年には戻ってくる暑さや寒さに、彼岸がどんな所か聞いてみたい。
猫しか住めないその町に、木天蓼と爪研ぎを定期的に届けたい。
切り株の上にバウムクーヘンを乗せて、ドイツで教わった早口言葉を唱えたい。
猫の首輪になったら、鈴を大小数多集め、用途によって鳴らし分けたい。
裏声でずいずいずっころばしを優雅に歌い上げ、ネズミをおびき寄せたい。
下駄に下駄を履かせ、天気占いをやらせたい。
機嫌よくて歌う鼻歌がダミ声で機嫌が悪くなるから、美声の鳥に代歌を頼みたい。
いつまで経っても読み終わらない絵巻物にしびれを切らしたい。
屋根も天井も硝子にしたら、素敵な絵も本も色褪せてしまうからやめておきなさいと、ガラガラとブロックを掻き回す幼い建築家に進言したい。
ポケットは飴玉が大好きらしいが、17個に1個くらい、ドライいちじくを入れたい。
次の雨の日、苔町に招待されることになっているから、長靴を買い替えたい。
街灯は発光シャボン玉だというその町に行ってみたい。
標本箱に溜まった埃から、蒐集談義を聞きたい。
初詣に行けなかったから、狛犬におみくじを届けてもらうための地図を描きたい。
ハンモックを吊るすに相応しい樹木をそこら中に植えたい。
冬の夜、スキップしながらご機嫌な口笛を吹いて、音符が凍るのを見たい。
来年の元日は 「我こそは月の化身なり!」などとは言わぬ、無口な丸餅を食べたい。