超短編
茸汁がおいしく出来たので、道に迷って腹を空かせた旅人に振舞いたい。
古びたレコードのプチプチ音を収集して、瓶詰にしたい。
祖母の家の勝手口の扉が付喪神になりつつあるようで、勝手なことを言い出したので、口を慎むよう叱りたい。
庭の虫の声が例年になく音痴なので、コオロギ男爵を指揮者に迎えたい。
素敵な手鏡が欲しいのに、なかなか気に入るものが見つからないので、お月様をピカピカに磨いて、綺麗に映る鏡にしたい。
ちょうどお茶をカップに注ぐ頃に帰られてしまうと思うが、よい茶葉が手に入ったので、お茶会にウルトラマンを招待したい。
懐が寂しいので、巨峰、ゴルビー、シャインマスカット、キャンベル、ナイアガラ……一房に好きな品種がすべて生っている葡萄が食べたい。
冬に備えて、各地の灯油配達の車から流れるメロディーを長調に変えたい。
ポケットを叩いて作るビスケット、雨の日はどうも不作なので、防水仕様のビスケット製造ポケットを作りたい。
中秋の名月氏に、月餅と月見団子の食べ比べをしてもらいたい。
外資系企業に買収されたスーパーマーケットの裏手がレジスターの墓場となっていたので、レジスタンスを起こすのを電信柱の陰から見守りたい。
風もないのにお猪口になる傘を説得して、酒屋に行きたい。
いつどこで猫に遭遇してもいいように、左手中指の先からポロポロとキャットフードを錬成する技を覚えたい。
鯨尺の物差しで鯨を採寸して、鯨柄のアロハシャツを作りたい。
手品師たちからトランプを借りて、J・Q・Kのカードだけで作った高層タワーを作り、喧嘩が起きるかどうか試したい。
夕暮れ時の歓楽街で、点灯を始める派手なネオンサインに指差しながら歩き回って、全部を黄色に変えたい。