2013年12月26日木曜日
2013年12月17日火曜日
2013年12月9日月曜日
2013年12月4日水曜日
2013年11月21日木曜日
奇行師と飛行師10
鯨怪人は突き刺さったハイヒールを引き抜いて、奇行師に返した。
「おれも一緒に連れて行っておくれよう」
奇行師と蝸牛男が、歓迎の舞を背中で踊るので、飛行師はなんども墜落の危機を感じたが黙っていた。
「鯨怪人は、ヒトですか、クジラですか」と蝸牛男が聞いた。
「同じ質問をそっくりそのまま返すよ。あ、蝸牛男、はじめまして」
鯨怪人と蝸牛男はとても気が合ったようだ。
飛行師は、だんだんと本物の飛行機に近づいているような気がしてきていた。
変人を三人も背中に乗せて飛行しているのだから、もうただの飛行師ではない。
海上すれすれではあるけれども。
2013年11月13日水曜日
2013年11月5日火曜日
2013年10月18日金曜日
2013年10月11日金曜日
2013年10月8日火曜日
2013年10月5日土曜日
2013年10月2日水曜日
2013年9月28日土曜日
2013年9月25日水曜日
2013年9月23日月曜日
彫刻家(お題:冷たい)
2013年9月11日水曜日
2013年9月7日土曜日
Re: 無題
壁と箪笥の隙間に指を差し入れると、何かが指先を舐めるのだ。
這いつくばって懐中電灯で箪笥の隙間を照らし覗きこんでも、何も居ない。何もない。
けれども、人差し指を入れると、やっぱりチロチロと何かが舐めるのだ。
まあ、何でもいいや。チロチロチロチロと指を必死で舐めている「何か」が私はだんだん愛おしくなる。お乳をやる母猫はこんな気分かもしれない。いや、「何か」がいることを確かめて安心しているのは、私だ。
毎日、何時間もそうやって指を舐めさせているからか、近頃、指先がいつも腫れていて赤い。
その指を自分で舐めてみるが、「何か」のように上手く舐めることはできず、思わず歯を当ててしまう。赤く晴れた指からは、簡単に血が出るけれど、血が出ていると「何か」は舐めてくれないのだ。
2013年9月4日水曜日
Re: 無題
飼い猫がにゃーにゃーと鳴いているので、探すけれども見つからない。
あちこち探して、姿見の前を通りがかったときに目の端に猫の姿を捉えた。
反射的に姿見が映しているあたりを見るけれども、そこには居ない。果たして猫は鏡の中に入ってしまったのだった。
「どうやって入ったの?」
私は姿見の前にしゃがみこんで、猫に問うた。
にゃーと答えるばかりで人間にはわからない。猫も事情を察しているらしくて、こちらに懸命に訴えてくる。にゃーにゃー。
私は家中の鏡を引っ張り出してきて、姿見の前に並べた。なんだか魔術でもはじまりそうだ。
あっちこっちに鏡の位置を変えたり、上から横から覗いたりしていると、猫は別の鏡に映ったり映らなかったり、移ったり移らなかったり。
そうこうしているうちに、一番小さな手鏡からヒョイと飛び出してきた。
以来、鏡は必ず布を掛けているが、それでも時々知らない猫が鏡から飛び出してくる。
2013年8月29日木曜日
水菜と鶏皮のスープ
たっぷりと入った水菜をかき分ける。美しい湖に潜っているような心持ち。水菜はゆらゆら揺れる水草みたい。ゆれる水草に隠れる魚……もとい、鶏皮を見つけたら、水菜と一緒に箸で摘んで食べる。おいしい。水菜が少なくなって、湖の様子が変わる。
そんな空想をしながら夢中でスープを食べていたら、お母さんに「また何か考えてるでしょ?」って言われた。お母さんいわく、空想してる時の顔はすぐわかるって。
「だって、スープがきれいだったんだもん」って言ったら、笑った。そんなお母さんも、なんだかやけに真剣な顔でスープを覗きこんでいる。私もこんな顔してたのかな、と思ったらおかしくなってゲラゲラ笑った。
2013年8月22日木曜日
ミネストローネパスタ入り
木製のお椀を両手で包むように持ったまま、動こうとしない人がいる。中に何が入っているのだろうと、そっと覗いてみれば、スープだ。ミネストローネ。パスタも入っている。温かそうな湯気が立っている。ここが真冬の駅の改札口でなければ、もっと美味しそうに思うだろう。
待ち人をしている私の少し離れた横に居て、その人もやっぱりじっと立って駅から出てくる人を見ている。この人も誰かを待っているのだろうか。足先にしもやけの予感を感じながら、隣の人の様子を窺う。まだ湯気が立っていて、ミネストローネはまだ温かそうだ。もう随分立つのに、私の待ち人も、その人の待ち人も一向に現れない。
自分の白い息だけをぼんやり眺めていたら、ふと、それが息ではなく湯気だと気がついた。いつの間にか木製のお椀を持っていた。横に立っていた人はいなくなっていた。次の電車が終電だ。私はお椀に口を付けるかどうか悩む。
2013年8月19日月曜日
レンコンとアスパラのスープ
シャクシャクと音がする。「いい音で食べるね」と声を掛けると、少年は顔を上げてニッと笑った。本当に楽しそうな音だ。
少年はあまり言葉を話さない。だが、食べるときはとても饒舌になる。言葉ではない。表情や仕草から「おいしい!」が溢れてくるのだ。
「レンコンが入っているのね?」と尋ねると、大きく頷いた。それからアスパラガスもひょいと箸で持ち上げて見せてから、ぱくりと口に入れた。
「レンコンとアスパラが入ってるのね」と言うと、少年はまたニッと笑った。
少年はどんどん食べるけれど、器の中のスープは一向になくならない。リズムよくレンコンがシャクシャクと音を立てている。
食べる速度がゆっくりになってきてようやく器のスープも減り始めた。食いしん坊に都合のよい器。
空になった器を置くと少年はいつものむっつりとした表情に戻り、立ち上がった。去っていく足音は軽やかだから、きっと満足したのだろう。「難しい年頃」というけれど、そんなこともないと思う。
2013年8月18日日曜日
春野菜のミネストローネ
冬の間、畑は何を思っているのだろうか。土は冷え、固くなる。時には雪が積もる。畑はじっと耐え春を待つのか、それとも眠りこけているのか。
春の野菜を食べるとき、そんなことを考えてしまう。難しい顔してミネストローネを食べている私を、祖母は「すべてわかっている」といった風情で見ている。「おばあちゃんも昔は同じようなことを考えていたよ」と、その目は言っている。
「いつかは私もおばあちゃんみたいにおいしいお野菜と、おいしいスープが作れるようになるかな?」
と言ったら、「畑の土に聞いてみたら?」と、窓の外の畑を眺めながら祖母は笑った。やっぱりおばあちゃんはお見通しのようだ。
2013年8月13日火曜日
2013年8月12日月曜日
焼きトマトのお味噌汁
7歳の娘が「味噌汁日録」なるものを記しはじめた。毎日の味噌汁をイラスト付きで記している。なんだか不思議なことをする子供だと我が子ながら思うが、しばらくするとこちらも張り合いが出てきて、毎日の味噌汁に工夫したり新しい食材や味噌を取り入れてみたりするようになった。
娘も娘で、いっぱしの「味噌汁評論家」になりつつある。娘と明日の味噌汁の具を相談したり、今日の出来を語り合ったりするのは、案外楽しい。娘が台所を手伝う回数も増えてきた。
「そういえば、トマトのお味噌汁って作ったことないね」
と、娘がノートをめくりながら言った。「トマトかー、やってみる?」
「うん! やってみよう!」と元気よく答える娘と一緒に買い物に行き、とびきり美味しそうなトマトを買ってきた。このまま齧り付きたいところだが、あえて焼いてから味噌汁にした。椀によそうと、崩れたトマトが鮮やかだ。
「どう……?」
「すごーい! こりゃ絵になるね」と、おどけながらも、おいしいおいしいと娘は喜んでいた。
食事が終わるとさっそく色鉛筆を取り出した娘の横で、早くも新しい味噌汁の構想を練る。
2013年8月10日土曜日
三種のスープ
バケットをカリカリに焼いて、バターを塗り、スープと共に食べるのが、私の楽しみである。スープは三種類。今日はレンズ豆のスープ、にんじんポタージュ、ミネストローネ。もちろん自分で作る。一人で食べるには手間が掛かるし、ちょっと贅沢だ。
このお楽しみのために、一人暮らしを初めて早々に同じ鍋を色違いで三つ買った。厚手の琺瑯鍋だ。これで一度にスープを三種類作りたくても、鍋が足りずに困ることはない。高い買い物だったが、毎週のように使っているし、色違いの鍋が台所に並んでいる様子を眺めているとそれだけでウキウキする。
レンズ豆のスープは緑色の鍋、にんじんのポタージュはオレンジ色の鍋、ミネストローネは白い鍋に作った。たっぷり作ったから、三日は持つだろう。私は明日の朝の朝食に再びスープを食べることを楽しみに眠った。
翌朝、台所にはチグハグな鍋が並んでいた。緑色の鍋に白い蓋、オレンジの鍋に緑の蓋、白い鍋にオレンジの蓋。心なしかスープも減っているようだ。
「泥棒?!」と思ったけれど、どうもそうではないような気がする。きっと鍋同士で味見大会をしていたのだ。だって蓋にはこれまたチグハグにスープの跡が残っているから。
2013年8月7日水曜日
玄米のスープ
玄米のスープは本当に丁寧に作らないといけないのだ。私は深呼吸して鍋に向き直った。祖母は万事、丁寧な人ではあったが、玄米スープを作るときは特別だった。背筋をすっと伸ばし、木べらをゆっくりゆっくり動かす仕草からも真剣さが伝わってきた。
祖母は私や両親が少し調子を崩しかけている時、それも本人がそうと気が付かないくらいのうちに、何も言わずに作って出してくれるのだった。
祖母が亡き後、ずいぶん長いこと玄米のスープのことを忘れていたが、この頃なんとなく体調がすぐれない日が続いて、ふと思い出して作ってみる気になったのだ。
「ゆっくり、ゆっくり。優しく優しく」いつの間にか、祖母と同じ口調でつぶやきながら、ゆっくりと木べらを動かす。
玄米のスープは、昔と同じ味がした。うまくできたようだ。祖母が頭を撫でてくれた気がした。
2013年8月5日月曜日
けんちん蒸しのお吸い物仕立て
料理が得意な友人の家に招待された。小料理屋にでもいるような気分で、寛いで飲み食いし、話にも花が咲く。
「ところで、こんな料理、どこで覚えたんだ?」
けんちん蒸しがちょこんと入ったお吸い物を啜りながら、友人に訊いてみた。口の中でふんわりとけんちん蒸しが崩れる。絶品だ。
「信じられないだろうけれど……」と友人は切り出した。彼は料理教室に通ったことがあるわけでもなく、料理上手な家族から手ほどきを受けたわけでもないという。
「この家に暮らし始めてから、突然料理ができるようになったんだ」
少々古いが、なかなか心地のいい家である。中古で買ったというこの家に、料理が得意なオバケの類がいるのではないかと彼は大真面目な顔で言うのだった。
「たとえば実家の台所に立っても何もできない。これはもう、この家の仕業としか思えない」
このけんちん蒸しは、特に得意らしい。「いつのまにか、たくさん出来ていた」からと、おかわりを勧められる。遠慮無く椀を差し出すと、友人の顔が一瞬嬉しそうに微笑む女に見えた。
2013年7月27日土曜日
青梗菜としめじ、豆腐の中華スープ
青梗菜を初めて知ったのは、スープだった。もうずいぶん昔の話だ。
「軸は白菜の根本みたいに肉厚だし、葉っぱは小松菜のようでもある」と、知らない野菜をひとしきり観察したのだった。
中華風の味付けのスープはおいしくて、その野菜がなんという名前であるか、店主に訊くのを忘れてしまった。
「チンゲンサイ」という名前と、スーパーで売っている姿を覚えたのは、それからしばらく後のことである。
それ以来、あの店のスープの味を再現しようと毎日のようにスープを作るが、未だに納得のいくものが出来ていない。
幸い、青梗菜はずいぶん手に入りやすくなった。あのスープを食べた店があったはずの場所は、もうずっと前から空地のままだ。
2013年7月25日木曜日
金時人参のお麩入りポタージュ
金時人参はちょっと特別だ。すらっとした姿、赤みの強い色……野菜のくせに、なんてカッコイイんだろう。
僕が人参を振り回して戦っていると、叱られた。「食べ物で遊んじゃいけません」って。でも僕は遊んでいるつもりではなくて、悪いやつと戦っていて、金時人参はレアで強い武器なのだけど、それを説明する言葉が見つからない。
そういう母だって金時人参を料理するときはいつもより楽しそうだった。とりわけポタージュを作るときは、ウキウキと嬉しそうだった。いつもは入れないお麩も入れて、いっそう丁寧に作っていたことを知っている。
相変わらず僕は金時人参を見ると特別な武器に見えてしまうけれど、母のポタージュの味を懐かしく思うくらいには大人になった。
汽車と鉄道路線夫(お題:線路)
2013年7月22日月曜日
にんじんと黄色いズッキーニのコンソメ
「黄色い僕が居てこそにんじんが輝くのだ」ズッキーニは主張する。
「人参の味と香りなしにはズッキーニはその長所を発揮できないではないか」というのが人参の言い分。
僕は賑やかな両者を口中で融合させ「とってもおいしいよ」とその鮮やかなスープの眩しさに目を細めるのだった。
2013年7月20日土曜日
黒米と梅干しのスープ
私には少々風変わりな叔父がいた。近所の空地にテントを張って暮らしてみたり、外国に行くといって出て行ったと思ったら隣町の飲み屋で酔いつぶれていたり、ものすごく美人の女の人が高級車で迎えに来たり。何をやっているのかわからない。
そんな叔父が一度だけ手料理を食べさせてくれたことがある。梅干しの入った黒米のスープ。その頃の私は黒米なんて知らなかったから、「おう、食え」と出されたお椀の濃紫色を見て、ギョッとしたものだ。だけれど、叔父がニコニコとこちらを見ているので仕方ない。梅干しをほぐしながら啜る。
「あ、おいしい……」
それは身体にすっと沁み渡るような、ほっとするような味だった。叔父は、見たこともないような優しい顔で私を見て、それから満足そうに笑った。
「おれの開発した、縄文風スープだ」
その後しばらくして、叔父は本当にどこかに行ってしまった。叔父はきっと縄文時代に帰っていったのだろう、とちょっと思っている。
2013年7月17日水曜日
甘夏のジュレ
娘が「ただいま」の声もなく帰ってきた。「どうしたの?」と訊こうとして、やめた。口を結んでいないと大粒の涙が零れてしまうのだ、この顔は。言いたくないことを無理に訊くことはない、と心に言い聞かせてから、冷蔵庫から甘夏のジュレを出した。ミントの葉もちょこんと乗せて。
ゆっくり味わうようにジュレを食べる娘の表情が少し和らいだところで「お母さんにも一口ちょうだい」と言ってみた。てっきり「ダメ」と言われるかと思いきや「しようがないなぁ。あーん、して」とスプーンが伸びてきた。
あら、しょっぱい。「ありがと」
「どういたしまして」とちょっぴり偉そうに返す娘はすっかりいつもの顔に戻っていた。
娘の涙を引き受けてくれたジュレにも「ありがと」。
2013年7月15日月曜日
2013年7月14日日曜日
2013年7月11日木曜日
2013年7月9日火曜日
失われた都市(お題:失われた都市
風も吹かず、砂粒一つも動かない有様を見て人々は恐れ、都市の行方に思いを馳せる者は少なかった。
都市の人々が変わらず活動しているということに気がついたのは七歳の少年だった。
六十歳年上のペンパルからの便りが三日遅れていることを気に病んでいた彼は、ポストを開けた瞬間小躍りした。
封書はいつもよりも些かくたびれた風情ではあった。ペンパルの記した日付は都市が消えた翌日だった。
そのニュースが世界を回ったのを皮切りに、都市にあった会社の商品が届き始めた。金融も動き出した。
電話も出来る。しかし、都市はない。
人々は、砂漠の下に都市がそっくり埋まっているに違いないと掘り返しているが、七十八年経った今でもまだ見つかっていない。
2013年7月7日日曜日
ミルク一滴(お題:雫)
ぽたん
手の甲に水滴を感じた。
見ると、ミルククラウンがゆっくりと立ち上がり、そして消えていった。
雨かと思ったけれど、それは確かにミルクなのだった。
空を見上げると、乳牛の形をした雲が走り去っていった。(102字)
2013年7月2日火曜日
ピラミッド(お題:ピラミッド)
幼い息子が「痛い、痛い」と頻りに指を気にするので見てやると、小さなピラミッドが刺さっているのであった。
「どれどれ、抜いてやろう」と言うと、「ダメ」と怒る。
痛いのは困るだろう、こんなものが刺さっていたらご飯を食べるのも不自由するよと、なんとか宥めて、ようやくピラミッドを抜いてやった。
それは思ったよりすんなりと抜けたが、抜けた途端に砂になってしまった。
「エジプトのピラミッドの一つが崩れてしまった、原因はわからない」というニュースを翌朝の新聞で知ると、息子は「だから、ダメって」と呟いた。私はどうすればよかったのだろうか。
2013年6月27日木曜日
増毛(お題:毛)
幼い娘の髪を切ってやるのは数ヶ月に一度の私の役目であったが、それは妻より私のほうが散髪が巧かったからというわけではなかった。妻に切らせることはできないと、気づいた私がその仕事を買って出たのだ。
切落した娘の頭髪は、またたく間に増殖するのである。毛から次々と毛が生えるのを目の当たりにした私は、それを妻に伝えることができなかった。切り落とした毛ほどではないが、抜け落ちた毛も少しは増えるようである。
「この子は抜け毛が多いのよ。若いからかしらね」と綺麗好きな妻は時々そう言うけれど、娘の奇っ怪な毛の性質については未だ気がついていない。
騙し騙し私が切っていた娘の髪だが、高校生ともなるとさすがに美容院へ行きたがるようになった。
「お父が切るほうがいいだろ?」と言いながら目で問うてみると、娘はクスっと笑った。
娘の行った美容院は間もなく潰れてしまうので、この町から美容院がなくなる日も遠くないだろう。
2013年6月25日火曜日
果物屋(お題:果物)
新しく引っ越してきた町の商店街には立派な果物屋があるのだが、客を見掛けたことがない。
商売やっていけるのかと訝しんでいたが、魚屋のおばさんが「あそこはカブトムシにしか売らないのよ」と教えてくれて合点する。
2013年6月24日月曜日
胃袋反転(お題:空腹)
その男は腹が透けて見える。
初めて見せてもらったときには、「ああ、理科室の人体模型って、正しいんだな」と些か間抜けなことを言ってしまった。
男は腹が透けて見える代わりに、空腹中枢がイカれている(本人談)のだそうで、空腹を自覚することが難しいらしい。
なるべく決まった時間に食事をするように心がけてはいるが、時折腹を覗いて、胃袋の中を確かめなければならない、と。
子供の時は、自分の胃袋に吸い込まれる夢をよく見たらしい。それは、空腹に耐えかねた胃袋が膨張し、腹を突き破り、やがて破裂した胃袋が裏返って自分の身体が己の胃袋に飲み込まれる、というような夢だそうだ。
「最近は滅多に見ないけれどね」と笑う男に俺は笑い返せなかった。その夢は、俺もよく見るのだ。
2013年6月23日日曜日
長い眠り(お題:眠り)
ミイラに添い寝していた猫は、盗掘者のせいで心地良い眠りから覚めてしまった。
ずいぶん抗議したけれど、盗掘者はまさか3000歳の猫とは知らない。
とうとう猫は盗掘者の飼い猫となってしまった。
まあ、起きているのも悪く無いかな、もう3000年くらいは。とひなたぼっこをしながら考えている。
2013年6月22日土曜日
ブロック塀の歌(お題:歌)
「お歌歌ってるね」と、坊やが必ず言うのは、あるお宅のブロック塀の前だった。
色々観察してはみるが、歌を歌いそうなものは何もない。
顔を近づけてみたり、ちょっと指で弾いてみたりしても、やはり何も聞こえない。
小さな子供だけに聞こえる歌なのかしら。私はずいぶん前に子供ではなくなってしまった。
それでも「お歌」が聞きたくて、坊やが寝ている間にそっと家を出た。聴診器を持って。
周りを窺ってそっと聴診器をブロック塀に当てた。「アメイジング・グレイス」によく似たブロック塀の歌が聞こえた。
2013年6月19日水曜日
オン・ザ・ロック(お題 透明)
オン・ザ・ロックが宙に浮いているように見えるのは、そのグラスが余りにも薄く、透明度が高いからである。
そのグラスを作った硝子職人は透き通った無色の虹彩と瞳孔を持つと噂されているが、彼に会ったことがあるという人は、七十年前に死んだ。
2013年6月14日金曜日
2013年6月13日木曜日
2013年6月7日金曜日
巻貝に住む人
園児が寄ってくると、海の生活や海の生き物の話を聞かせる。話は巧いらしく、子供はじっと聞いている。
幼稚園の先生や保護者からは度々マサキを追いだそうという話が出る。実際、警察が呼ばれたこともあったが、結局マサキはいまでも巻貝の住人である。
2013年5月29日水曜日
海
初めて渚ちゃんの部屋に入ったのは、六年生の終わり頃だっただろうか。
彼女の部屋はベッドと机があるところ以外、全ての壁が本棚になっていた。
天井まで届く本棚は小柄な渚ちゃんを押しつぶしてしまいそうな圧倒感があった。
「図書館みたいだね」
と言うと彼女はちょっと嬉しそうに笑った。だけど、驚くべきだったのは大きな本棚ではなくて、そこに収まる本だったのだ。
すべての本のタイトルか作者の名前に「海」の文字が入っていた。『海洋生物の多様性』なんていう本から「加藤海」という作者の本もあった。とにかく、海が本棚から溢れていた。
渚という名前は、彼女のお母さんが付けたというのだが、私はついぞお母さんに会うことはなかった。玄関にはいつも大人用のヒールのある靴があったし、お母さん手作りだというお菓子も出てきたが、一度も顔を見ることはなかった。
私の母も「渚ちゃんのお母さん? そういえば、会ったことないわね」と言うのだった。
中学の三年間、私はすっかり渚ちゃんの部屋に入り浸って、海の付く本を読んで過ごした。時折、潮の香りや波の音が聞こえるのに気がついていたが、私は海を知らなかったから本当に潮の香りや波の音かどうかはわからない。それに、ここにいると波の音が聞こえるくらいは当たり前なことのように感じられるのだった。
渚の家は今は、ない。ある朝、渚の家があったところだけ、砂浜になっていた。海はここからずっと遠いのに、砂は濡れ、潮風が吹く。何度か砂浜を歩いてみようかと思ったが、止めた。きっとここは海に通じる何かなのだ。
家も渚も、お母さんも、海に帰りたかったのだろう。ずっとずっと帰りたくて、そしてとうとう叶ったのだろう。私はそう思っている。
2013年5月22日水曜日
2013年5月17日金曜日
胡桃割り人形の錯乱
あんぐりと口を開けて、胡桃を咥えた老兵隊は、有無も言わずにサーベルを振り回しながら町を駆けまわる。
「見ろ、兵隊がおかしくなっちまった」
町の人々は指をさして嗤う。
町の人の八割五分の嗤いが止まらなくなったところで、王様自ら老兵隊が咥えた胡桃を取り上げることになった。
老兵隊の咥えた胡桃は、王様がどんなに引っ張っても取れなかった。
口を開けろ、口を閉じろ、歯を食いしばるな、歯を食いしばれ。舌を出せ、舌を出すな。
王様は様々なことを言いながら、胡桃を引っ張ったが、どうにも取れない。
老兵隊はまたサーベルを振り回し始め、王様は胡桃から手が離れなくなり、町の人の九割五分の嗤いが止まらなくなった。
2013年5月14日火曜日
2013年5月12日日曜日
2013年5月7日火曜日
2013年4月29日月曜日
2013年4月26日金曜日
2013年4月22日月曜日
2013年4月20日土曜日
落ちている赤ん坊を拾う話
高校を卒業して、家を出ることにしたとき、「そうそう」と親父は話し始めた。
「うちは、ステゴの家系なのだ」
親父は自慢そうに言った。「ステゴ」が「捨て子」であることに気づくまで、少し間が掛かった。
「俺も、おまえのじいさんも、ひいじいさんも、もちろんおまえも、捨て子だ。先祖代々由緒正しき捨て子の家系である」
自分が捨て子であることは、さほどショックではなかったが、自分の先祖が皆捨て子であることには流石に驚いた。
「おそらく」
親父は険しい顔をした。「おまえもそのうちに赤ん坊を拾うことになる」
そうして、拾い子に関する役所的な手続きやら、育て方やら、今オレにしているように捨て子の家系であることを明かす時期について、親父は親父らしからぬ丁寧さで講義をしたのだった。
道端に赤ん坊が落ちていることなんて、そう滅多にないだろうとタカをくくっていたけれど、「家系」といわれてしまうと気にはなる。
そして今朝、出勤しようと玄関の扉を開けた所に、赤ん坊が落ちていたいたのだ。
「やあ、息子……いらっしゃい」と、おれは呟いた。
2013年4月14日日曜日
2013年4月9日火曜日
2013年4月6日土曜日
2013年4月3日水曜日
特等席
窓際の席に一つ、いつもカフェオレが置いてある。誰もその席には座らない。
その店の常連になるにつれて、窓際のカフェオレは見慣れた景色になってしまったけれど、その代わり気がついたこともあった。
カフェオレが少しずつ、少しずつ、減っていくこと。
透明人間がいるのかしら。それとも、幽霊……?
そんな話をこの店で顔見知りになった直子さんにした。直子さんはいつも窓際のカフェオレの左隣の席でコーヒーを飲んでいる。
私の祖母くらいの年格好だけれど、気さくな人で、話はよく合う。
「幽霊といえば、幽霊よねえ、あなたは」
ふふふ、と直子さんがいたずらっぽく笑って、カフェオレの前に自分の老眼鏡をかざした。
眼鏡の向こうで、小さなおじいさんが「やあ!」と手を振った。
マグカップの縁に腰掛けて、小さなマグカップでカフェオレを掬って飲んでいるのだった。
「ここは、私の連れ合いの特等席だったのよ。相変わらずカフェオレばっかり飲んでるの、困ったおじいさんよね」
2013年3月31日日曜日
2013年3月20日水曜日
六色沼に沈む
六色の沼は規則正しく並んでいる。
沼に小石を投げると、それぞれ沈む速度が違うと言われているが、試したことがあるという人はいない。
なぜなら六色沼にはそれぞれ主が住んでいて、石など投げれば主が怒るに決っているからだ。
「主様、主様」
子供が呼びかけると「なんだい?」とそれぞれの沼から主が現れる。
主たちの姿形は、おじいさんのようにもおばあさんのようにも蛙のようにも見える。
「沼に沈む速さが違うという話は、本当ですか。わたしは試してみたいのです。綺麗な石を六ツ持って参りました。この石は主様に差し上げますから、どうか石を投げさせて下さい」
主たちは沼から出てきて子供の手を覗き込んだ。小さな艷やかな石を、主たちは大層気に入った。
「よいよい、投げてみろ。けれど、石の色がそれぞれ違うな。どの石をどの沼に投げるか決めねばならない」
沼の主は、なかなか欲張りなのだった。
そうして主たちが話し合っている間、主が不在になった沼はすっかり淀んでしまい、主たちはどの沼が己の沼かがわからなくなってしまった。
2013年3月18日月曜日
イレブン
十一人はそれぞれに役割を持っている。
一人目は測る人、二人目は塗る人、三人目は切る人、四人目は着る人、五人目は折る人、六人目は織る人、七人目は書く人、八人目は待つ人、九人目は寝る人、十人目は探す人、そして十一人目は喋る人である。
ちなみに順不同、他意はない。
さて、十一人はそれぞれの持ち場について仕事をするわけだが、喋る人はこのごろ喋るのにちょっと疲れてきた。隣の芝は青い、只管に芝生の長さを測っている人が羨ましかったので、交代を申し出た。
測る人から喋る人になった人は、何を喋って良いかわからなくなって、昨日食べたケーキが如何に美味しかったかを延々喋っている。
今度は着る人になりたいな、と思いながら昨日のケーキの話をまだしているし、隣で切る人がケーキを11等分しようと苦戦している。
2013年3月14日木曜日
2013年3月11日月曜日
虹が出ている、その間
車が水を飛ばしながら私の横を通り過ぎていく。
せっかく雨が上がったというのに、憂鬱だ。さっきの車のせいで、お気に入りの服がビショビショになったからだけではない。もうずっと前から、憂鬱の種からはたくさんの芽が出ていたのだ、きっと。
「こんな日は、甘い甘いコーヒーを飲みましょう。ミルクもたっぷり、シュガーもたっぷり、ね」
祖母の声を聞いたような気がして、目の前に現れた喫茶店に入った。
「カフェオレ、下さい」
祖母の言いつけ通リ、ゆっくりとカフェオレを飲む。
こんなところに喫茶店はないはずなのだけれど、今の私にはどうでもよかった。だってカフェオレが美味しいから。
「虹が出ている間だけ、ですよ」
マスターが私の疑問を見透かしたように言う。眼差しが優しい。
「でも、大丈夫。今日の虹は頑丈です。どうぞごゆっくり」
窓の外を見やると、くっきりとした虹が出ていた。マスターと同じ顔をした紳士たちが大きな筆で虹をせっせと書き足しているのが見えた。
「マスター、カフェオレ、もう一杯下さい」
2013年3月10日日曜日
うがい薬
「赤いうがい薬と、青いうがい薬と、黄色いうがい薬、どれがいい?」
と息子が言う。お店やさんごっこをしているようだ。
「それじゃあ、黄色いうがい薬下さい。ゴホンゴホン」
風邪をひいている風をして、客の役をやって見せる。
「黄色いうがい薬は、風邪には効きません。ヒマワリと話ができます」
最後は息子の声ではなかった。低くてガサガサした男の声。
「ハイ! 3250円です」
なんて高いうがい薬だ。と、思う前に古びた小瓶を渡された。絵の具を溶かしたような黄色の色水が入っている。
おもちゃのお札と引き換えに小瓶を受け取る。こんな瓶、どこで拾ってきたのだろう。
「ね、早くうがいして! 早く早く!!」
瓶の蓋を開けると、庭に咲いたヒマワリ達が一斉にこちらを向いた。
2013年3月2日土曜日
2013年2月24日日曜日
雨雲からの眺め
「雨雲に乗ってみないか」
と誘われた。青い雨合羽と長靴を履いた男の子が訪ねてきたのだ。
「それは、危なくないのか? 雲から落っこちたり、雷に感電したり」
私は冗談のつもりで質問したが、男の子は「大丈夫だ。乗るんだな」と言って、同じような雨合羽と長靴を差し出した。
おれはそれを着て、男の子に付いて歩いた。
そんなに長く歩いたわけではないのに、すぐに知らぬ景色となり、いつのまにか雲の上に着いていた。雲の上というのはもっとフカフカしているのかと思っていたが、そんなことはなかった。
「よく来たな」
と、男の子の父親と名乗る人に歓迎された。
雲雲の合間から町を見下ろした。すっかり夜になっていた。
夜景は美しいが、どこか物悲しい。ここは見上げると、宇宙だ。
翌日も雨を降らすのを手伝い、男の子と遊んだ。
時折、地上が恋しくなるが、まだ当分帰らないつもりだ。
2013年2月19日火曜日
2013年2月14日木曜日
2013年2月12日火曜日
足跡
鹿だの兎だの、ここいらにいる小獣の足跡よりもずっと大きく、もちろん人間のものでもなく、私はそれを見て「象」を思ったのだった。
足跡は大きな割に浅い。象が雪の上を歩いたら、もっと深い足跡になりそうなものだ。そんなことを考えながら、足跡を追って歩いた。
果たして、象が居たのだ。
象は、動物園でしか見たことがないが、アフリカゾウやインドゾウとは違うように思う。銀色によく輝く、雪の積もった晴れた昼間に実によく似合う象である。
そして、人語を話した。
「見つかってしまった」
象は照れくさそうに鼻をよじらせた。
「足跡を見たものだから」
「雪の上を歩いてみたかったのだ」
そうして私はしばらく銀色の象と遊んだ。背中に乗ったり、鼻を撫でたりした。
「そろそろ帰らなくてはいけないな」
と、象と私は呟いた。私は家に、象は空の向こうの銀色の森へ帰った。
2013年2月6日水曜日
2013年2月3日日曜日
行方
「私はどこへ行くのか」
少女は遠くなる地球を眺めながら宇宙に訊ねる。答えは返ってこないと知りながら。
どこかの星に辿り着くかもしれない。延々とと宇宙を漂うかもしれない。「すべては宇宙の御心次第」と、決まり文句のように大人たちは言った。
少女は、宇宙に捧げられる生贄としてカプセルに乗っている。
人々は宇宙を崇めた。いつからか宇宙に生贄を捧げる習わしが始まった。少女には不思議なことだった。宇宙を崇めたり、宇宙に祈ったりすることが、滑稽に思えた。三十年に一度の生贄を選ぶ年が来ると、少女は真っ先に手を挙げたのだった。
幾光年経っただろう。夥しい数の星に衝突した。が、生贄を受け取る星は、なかなか現れない。
ふと、遠くに微かな光を見つけ、少女は呟いた。
「行かなくては」
その言葉を聞き、カプセルは軌道を変えた。まだ一度も使われたことのない宮殿に向かって。
++++++++++++
SFファン交流会出張編投稿作
2013年2月1日金曜日
2013年1月28日月曜日
2013年1月26日土曜日
夢 第十六夜
「ふう」と息を吐き、ドシンと鞄を置いた。
高級ブランドのロゴが入った見るからに重たそうな鞄は、CDプレーヤー内蔵なのだという。
今時、CDプレーヤーを持ち歩くなんて。
「リサイクルショップで見つけた掘り出し物なの。ネットで探すと高値が付いているヴィンテージ物。前から狙っていたんだ」
嬉しそうな顔の彼女に、「よかったわね」と無理やり笑ってみせた。
「重たいのはCDプレーヤーのせいではないの」
彼女は誇らしげに鞄を開いて見せる。
「バッテリーがね、ちょっと重たいの。仕方ないけれどね、ヴィンテージってそういう物だし」
大袈裟な配線から外して見せたのは、ガラス容器に入った味噌だった。
「えっと……蓄電がなくなったらどうするの?」
結婚三年目の彼女は当たり前のように答える。
「お味噌汁を作るに決まっているでしょ?」
2013年1月24日木曜日
2013年1月21日月曜日
からまる未来
異星人が訪ねてきた。本人がそういうのだから異星人ということにする。
「私の星の者は、地球人の未来を予見することができるのだ」
それはそれは。
「おまえの未来は、少々複雑で予見が難しい。特殊な地球人だな、おまえ」
平凡なサラリーマンのつもりなのだが、異星人に「特殊」呼ばわりされてしまった。
「そういうわけで、おまえの未来を解く必要がある。未来は己で解くがよい」
異星人は何やら色とりどりのガラス球が幾つか付いた糸のかたまりを差し出した。
仕方なしに糸を解きにかかる。細い糸で、扱いにくい。癇癪を起こしかけると「切れるとおまえの命があぶない」などと脅かす。
糸を解く間、異星人は勝手知ったる様子でお茶を飲んだり、雑誌をめくったりしていた。
ようやく解いた糸のかたまり、最後に手に残ったのは青いガラス球の付いた糸だった。
「これがおまえの未来だ。すっきりしただろう」
異星人は、青いガラス球の糸を右のポケットに、他の糸をまたぐちゃぐちゃと丸めて左のポケットに押し込んだ。
結局、どんな未来かは教えてもらえなかった。それよりも、他の糸……赤や紫や黄色のガラス球たちの未来がなんだったのか気になって仕方がない。
++++++++++++++
SFファン交流会出張編投稿作
雪の予報
息子にそんな役割があることを知ったのは、彼が六歳になった冬のことだ。
夕方のニュースの天気予報で「夜遅くから雪」と伝えられると、「行かなくちゃ」と言った。
息子は「お母さん、あのね、僕は雪を降らせに行かなくちゃいけないんだ」
私はよくわからなくて「そんな遅い時間に出かけてはいけない」とか「せめてお父さんと一緒に行きなさい」などと叱ったりなだめたりしたけれども、初めて見る息子の真剣さと、大人びた眼差しに折れて、最後は「寒くないようにしなさい」とだけ言って送り出した。
小さい時から気象情報に関心が強いことは気がついていたが、そんなことになるとは思いもしなかった。
雪を降らせるってどういうことだろう。空に飛んでいくのだろうか。雪を作る機械を動かすのだろうか。
私は色々と考えながら息子が帰ってくるのを待った。仕事を終えた息子は、充実した顔をして戻ってきた。
「危ないことはなかった?」「寒くなかった?」と訊くと「大丈夫」と応え、すぐに寝てしまった。
それ以来、毎年冬に数回、出かけていく。ここが雪国でなくてよかった、と呟く。
雪が降る度にひとつ大人になる息子を見ると、誇らしく、少しさびしく思う。
2013年1月14日月曜日
2013年1月12日土曜日
海底の寝心地
乗っていた船が難破したのは、いつのことだったか。
船長は、最後まで船に残り、その船長を慕っていた僕も船に残った。
船長に、別れ際浮いていた何か(もはやそれが何かもわからなかった)を渡したことまでは覚えていて、それから僕は海底人になった。
山育ちのくせに、海への憧れが異常に強いことは、両親も訝っていたとはいえ、水中で生きられる身体だとは、もちろん知らなかった。
海底人になってからしばらくは、空気を吸っていないことに焦りを感じて海面に出てみたりもしたけれど、今は不用意に海面に出るようなことはしない。船に見つかったりしたら大事だからね。
海底では、ふかふかとやわらかい場所を探して、そこを家にした。暮らし始めてまもなく、人骨を見つけた。以前にも僕と同じような人がいたと思うと、ワクワクしたし自信も湧いてきた。ここを家とするのは間違いじゃないんだってね。
大きな海藻を身体に巻き付けて眠る。眠れない時は、ヒトデに話しかける。あれは案外おしゃべりで、聞き飽きない。




