「宝物は全部、私の中に大事にしまってあるの」
僕の彼女はよくそんな話をする。やせっぽちなくせにお腹がぷっくり出ている。幼女のような美しい彼女。
僕はそのお腹をやさしく撫でながら「いいだろ?」と囁いた。
小さく頷いたのを確認して、彼女の全身にキスを浴びせ、太腿からとろけた股間へ指を這わせた。
「え?」
彼女の中に、異物を感じ、引っ張り出す。彼女が甘い吐息で「イヤ」と言う。
「百点満点のテスト」
「どうしてこんなものが?」
「宝物だから。ずっと大事にしたいから」
宝物は次から次へと出てきた。死んだペットの首輪、初めて買った小説、綺麗な水晶玉……。子供の時大事にしていたという人形を引き出した時、とうとう僕はトイレへ駆け込んだ。
「ねぇ、来て?」
と彼女は潤んだ目で言った。「今一番の宝物をしまわなくちゃ」
僕はもうすっかりその気をなくしていたが、それは全く関係がないようだった。
彼女にとって、僕は保管すべき宝物でしかないのだ。こうして僕は彼女に呑み込まれる。
2010年4月25日日曜日
2010年4月21日水曜日
2010年4月18日日曜日
沈殿都市
この都市は一年に10cmの速さで沈んでいる。
ふかふかの火山灰の上に建てられたビル、ビル、ビル。
10cmというのは「火山が沈黙していた場合」だ。火山が爆発して灰が降れば、この限りではない。
よその町からは「どうしてそんなところに街を作るんだい?」と訊かれるが、
「ここが我々にとって心地よい場所だからだ」としか応えようがない。
「どうしてビルが倒れないんだい?」とも訊かれれば
「火山灰に垂直に沈むよう計算されつくしているからだ」と答える。倒壊の恐れは、ほとんどない。
今年はまたずいぶんと火山灰が降った。
我々は既に地上にいるよりも火山灰に埋もれている時間が長くなった。
近頃は、息をすると苦しい。我々の子は、空気を呼吸する必要がなくなるであろう。そうあるべきと、我々の親は望み、この都市を作った。
この都市が沈みゆくのを刮目せよ。我々は、地球の澱となる。
いさやん
砂場しゃん
あきよさん
三里さん
ふかふかの火山灰の上に建てられたビル、ビル、ビル。
10cmというのは「火山が沈黙していた場合」だ。火山が爆発して灰が降れば、この限りではない。
よその町からは「どうしてそんなところに街を作るんだい?」と訊かれるが、
「ここが我々にとって心地よい場所だからだ」としか応えようがない。
「どうしてビルが倒れないんだい?」とも訊かれれば
「火山灰に垂直に沈むよう計算されつくしているからだ」と答える。倒壊の恐れは、ほとんどない。
今年はまたずいぶんと火山灰が降った。
我々は既に地上にいるよりも火山灰に埋もれている時間が長くなった。
近頃は、息をすると苦しい。我々の子は、空気を呼吸する必要がなくなるであろう。そうあるべきと、我々の親は望み、この都市を作った。
この都市が沈みゆくのを刮目せよ。我々は、地球の澱となる。
いさやん
砂場しゃん
あきよさん
三里さん
2010年4月15日木曜日
2010年4月12日月曜日
2010年4月7日水曜日
読書の残骸
祖父が死んで、初めて書斎に足を踏み入れた。
生きているうちは決して入ることを許されなかった祖父の書斎。
一度入ってみたいと熱望していたその部屋は、想像以上に広かった。家の他の部屋とは明らかに異空間だ。祖父の匂いが充ち、重厚な本棚が僕を見下ろす。
床には本が散乱していた。開きかかったままの本も多かった。調べ物の途中だっただろうか? でも、ずいぶん乱雑だ。いつもきちんとしていた祖父の仕業とは思えない。
僕は、転がったままの本を一冊取り上げて、パラパラと捲る。所々にしか文字が残っていない。そういえば、祖父は本を読むことを「本を食べる」と言っていた。
他の本も多くは文字が残っていなかった。この部屋の本を、どれだけ祖父は食べたのだろう。
僕は手当たり次第、本を捲った。何百冊も手に取った。
どの本もスカスカだった。それは、養分を吸い取られた土を思わせた。
もうここに本はないのだ。あるのは、読書の残骸だけだ。僕はそう確信した後も、本を捲ることを止めなかった。
いさやん
あきよさん
生きているうちは決して入ることを許されなかった祖父の書斎。
一度入ってみたいと熱望していたその部屋は、想像以上に広かった。家の他の部屋とは明らかに異空間だ。祖父の匂いが充ち、重厚な本棚が僕を見下ろす。
床には本が散乱していた。開きかかったままの本も多かった。調べ物の途中だっただろうか? でも、ずいぶん乱雑だ。いつもきちんとしていた祖父の仕業とは思えない。
僕は、転がったままの本を一冊取り上げて、パラパラと捲る。所々にしか文字が残っていない。そういえば、祖父は本を読むことを「本を食べる」と言っていた。
他の本も多くは文字が残っていなかった。この部屋の本を、どれだけ祖父は食べたのだろう。
僕は手当たり次第、本を捲った。何百冊も手に取った。
どの本もスカスカだった。それは、養分を吸い取られた土を思わせた。
もうここに本はないのだ。あるのは、読書の残骸だけだ。僕はそう確信した後も、本を捲ることを止めなかった。
いさやん
あきよさん