鈴をつけたカラスが現れる。漆黒の躯にその小さな金色は輝きすぎる。鈴が僕を嘲った。
きみに伝えたかった言葉は鈴の轟音にかき消され、カラスはあっけなくきみを連れ去った。
帰り道、サキソフォン吹きがいた。
誰も立ち止まらない。聴衆は僕一人。褐色の指に操られてサキソフォンが「黒いオルフェ」を歌う。
「恋をなくしてしまったよ」
と僕はサキソフォンに話しかけた。
「鈴をつけたカラスのせいだ。鈴はそう、あんたみたいなキンピカの金色だった」
僕は饒舌になっていた。
「ほんの小さな鈴のくせに頭が割れるほど大きな音で鳴るんだ。あんたみたいに歌いはしない。耳を塞いだその隙に、カラスにあの娘を奪われた」
サキソフォンに黒い影が横切る。
サキソフォンが歌うのを止めた代わりに、褐色の男が低い声で言った。
「振り向くな。振り向けば、また鈴が鳴る」
僕はその言葉を最後まで聞くことができずに。
脳内亭さんのタイトル案リストより
2008年6月28日土曜日
かつて一度は人間だったもの
培養液の中は居心地悪くはないが、このコードはどうも気に食わない。
脳みそだけとなった私には、このコードが外部との接点だということはわかっている。今も、思考が電気信号となりモニターに表示されているはずだ。昔は十本の指でタカタカとキーボードを叩いたのに。今じゃ箱入り脳みそだ。
国家が重要人物と見なすと、問答無用「歩かない生きた辞書」となる。五十歳までに処置しなければ、現在の技術では箱入り脳みそにすることができない。健康に大きな問題はなかった。娘は結婚したばかりだった。
私は外科医だった。患者のデータをコンピュータ経由で受け取り、適切な治療法を指示するのが今の仕事だ。患部を見ることも、患者の声を聞くことも、薬品の匂いもしないのに、二十四時間膨大な数の患者を診つづける。
ほんのわずかの暇を見て、こうして考え事をしている。コードから送受信する情報だけではやっていられない。自分の意思で感じることのできる目や耳や鼻、そして物を触ることが出来るようにならなければ。そのための「器官」をどうやってこの箱につけ、脳と連動させるか。これが今一番の関心事だ。
培養液きちんと交換されるうちは、私は死ぬこともできないのだ。
********************
500文字の心臓 第77回タイトル競作投稿作
△1 ×1
脳みそだけとなった私には、このコードが外部との接点だということはわかっている。今も、思考が電気信号となりモニターに表示されているはずだ。昔は十本の指でタカタカとキーボードを叩いたのに。今じゃ箱入り脳みそだ。
国家が重要人物と見なすと、問答無用「歩かない生きた辞書」となる。五十歳までに処置しなければ、現在の技術では箱入り脳みそにすることができない。健康に大きな問題はなかった。娘は結婚したばかりだった。
私は外科医だった。患者のデータをコンピュータ経由で受け取り、適切な治療法を指示するのが今の仕事だ。患部を見ることも、患者の声を聞くことも、薬品の匂いもしないのに、二十四時間膨大な数の患者を診つづける。
ほんのわずかの暇を見て、こうして考え事をしている。コードから送受信する情報だけではやっていられない。自分の意思で感じることのできる目や耳や鼻、そして物を触ることが出来るようにならなければ。そのための「器官」をどうやってこの箱につけ、脳と連動させるか。これが今一番の関心事だ。
培養液きちんと交換されるうちは、私は死ぬこともできないのだ。
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500文字の心臓 第77回タイトル競作投稿作
△1 ×1
2008年6月27日金曜日
2008年6月26日木曜日
2008年6月22日日曜日
2008年6月20日金曜日
2008年6月17日火曜日
2008年6月16日月曜日
仮想空間
入り口でIDを入力、料金が瞬時に引き落とされる。
真っ白なこの部屋には、パスワードが掛かっているから誰にも見えない。
「私」は部屋の真ん中で蹲る。
私は考える。炎に焼かれる自分の姿を見たい、と。
見る見るうちに部屋は炎に包まれる。「私」は立ち上がり、炎の少ないところを求めて部屋を彷徨う。まもなく皮膚が爛れてくる。呼吸ができずに倒れる「私」。
鏡では見たことのない苦悶の表情。火傷と相まって醜いことこの上ない。
私はどんな愛撫よりも激しく興奮する。。きっと「私」に負けないくらい醜い表情をしているに違いない。
苦しむ。悶える。恍惚。モニター越しに共有する私と「私」。
アラームが鳴った。部屋が真っ白に戻る。「私」は立ち上がり、部屋を出ていく。
明日は海にしよう。久しぶりに溺れたいから。
真っ白なこの部屋には、パスワードが掛かっているから誰にも見えない。
「私」は部屋の真ん中で蹲る。
私は考える。炎に焼かれる自分の姿を見たい、と。
見る見るうちに部屋は炎に包まれる。「私」は立ち上がり、炎の少ないところを求めて部屋を彷徨う。まもなく皮膚が爛れてくる。呼吸ができずに倒れる「私」。
鏡では見たことのない苦悶の表情。火傷と相まって醜いことこの上ない。
私はどんな愛撫よりも激しく興奮する。。きっと「私」に負けないくらい醜い表情をしているに違いない。
苦しむ。悶える。恍惚。モニター越しに共有する私と「私」。
アラームが鳴った。部屋が真っ白に戻る。「私」は立ち上がり、部屋を出ていく。
明日は海にしよう。久しぶりに溺れたいから。
2008年6月15日日曜日
2008年6月12日木曜日
2008年6月11日水曜日
自然の摂理
死んだザリガニを標本にしているなんて、ちっとも知らなかった。
十年振りに入った幼なじみの部屋は、子供の頃の記憶と繋がるものは何一つなかった。壁いっぱいに整然とならんだ硝子瓶のなかはすべてザリガニで、そのほかには机とベッドがあるだけ。
けれども、ここにあるザリガニの標本はわたしが付いていった時に捕ったものばかりだという。
「でも、あの頃はザリガニを標本にしたなんて話はしていなかったよね?」
ベッドに浅く腰を下ろして尋ねる。
「そうだよ。子供の時捕ったザリガニは、しばらく飼って、死んで、庭に埋めた」
じゃあ、ここにある標本のザリガニは……。
「甦らせたんだ」
彼の睛の奥に、蒼い炎が灯るのが見えた。
分厚い鍵付きの黒い本を、彼はいとおしそうに抱える。
十年振りに入った幼なじみの部屋は、子供の頃の記憶と繋がるものは何一つなかった。壁いっぱいに整然とならんだ硝子瓶のなかはすべてザリガニで、そのほかには机とベッドがあるだけ。
けれども、ここにあるザリガニの標本はわたしが付いていった時に捕ったものばかりだという。
「でも、あの頃はザリガニを標本にしたなんて話はしていなかったよね?」
ベッドに浅く腰を下ろして尋ねる。
「そうだよ。子供の時捕ったザリガニは、しばらく飼って、死んで、庭に埋めた」
じゃあ、ここにある標本のザリガニは……。
「甦らせたんだ」
彼の睛の奥に、蒼い炎が灯るのが見えた。
分厚い鍵付きの黒い本を、彼はいとおしそうに抱える。
2008年6月7日土曜日
ファーストコンタクト
ニホン国ナガノ県ノベヤマに棲む野良猫、通称ゴローが異星生物と接触をしている模様、と国際宇宙連盟が正式発表した。
異星生命体との交信に初めて成功した地球生命体として、注目が集まっている。
ゴローの右第三番目のヒゲが赤く発光しながら細かく震え、謎の電波を送受信しているのが専門家によって確認された。
ゴローは毎晩、交信を行っていると見られ、現在、猫語で解析中。
異星生命体との交信に初めて成功した地球生命体として、注目が集まっている。
ゴローの右第三番目のヒゲが赤く発光しながら細かく震え、謎の電波を送受信しているのが専門家によって確認された。
ゴローは毎晩、交信を行っていると見られ、現在、猫語で解析中。
2008年6月4日水曜日
2008年6月3日火曜日
2008年6月2日月曜日
ネオ・カッパドキア
首都圏外郭放水路に、巨大神殿が出来た。河童の神殿である。首都圏の河川に棲む河童たちが共同で建設したこの神殿には、河童の神が祀られ、巨大なプールを備え、河童たちのサロンとなった。
河童たちは神殿が出来た後も各河川に暮らしていたが、次第に神殿の周囲に移り住む者が現れた。広場ができ、住処が作られた。胡瓜の備蓄倉庫は、神殿に負けない規模だ。
拡大した河童の地下都市は首都圏外郭放水路全体に及び、もはや地上の河川に棲む河童はほとんどいない。地下都市に移り住むのを嫌がる年寄りが僅かに残るだけとなった。
地下都市で生まれ育った河童は、色白で光に弱い。時折、胡瓜を調達すべく地上に現れるが、そのついでに人間と相撲を取りたがる。狙うのは、尻子玉ではなく、サングラスだ。
「未来妖怪」没作
河童たちは神殿が出来た後も各河川に暮らしていたが、次第に神殿の周囲に移り住む者が現れた。広場ができ、住処が作られた。胡瓜の備蓄倉庫は、神殿に負けない規模だ。
拡大した河童の地下都市は首都圏外郭放水路全体に及び、もはや地上の河川に棲む河童はほとんどいない。地下都市に移り住むのを嫌がる年寄りが僅かに残るだけとなった。
地下都市で生まれ育った河童は、色白で光に弱い。時折、胡瓜を調達すべく地上に現れるが、そのついでに人間と相撲を取りたがる。狙うのは、尻子玉ではなく、サングラスだ。
「未来妖怪」没作