誰にでも遺伝子を操作することができるようになると、自分たちの子供に「属性」をあたえる夫婦が増えた。特に容姿に手を入れることが多いのは、知能や性格をいじるよりも簡単で、倫理的にも後ろめたさが少ないのだという。
「かわいくなるんだから、本人だって嬉しいはず」
「親が子の姿を決めて何が悪いんですか」
と若い親たちは言う。
数年ごとに流行が変わるから、今年の新一年生は、猫形の耳を持つ子供たちだらけである。
2008年5月28日水曜日
ジェネレーター
旧式ドラム型ジェネレーターがギャッコングアッコンと盛大に騒いでいるから、サキオの話は半分も聞こえなかった。
「それで、すぃ……き……ってわけだ」
「あああ!? 聞こえねえよ!」
なんだってサキオはこんな騒音のなか喋りつづけるのだろう、黙って働いればいいものを。
このジェネレーターは、地下街の電気を作っている。もちろん裏の、非合法の街だ。あんまりボロいんで、常にどこかが故障して、常にどこかを修理しながら動かしている。つまり俺たちが面倒を見なきゃなんないってわけだ。
ジェネレーターには、「ハナコ」という名前がついている。俺がハナコを宥めすかして、かわいがるから、地下街は眠らない。そんな自負のもとで働いているのに、サキオはベラベラと喋り続ける。
「おい、ハナコの声がでかくてお前の声なんか聞こえやしねえんだ。少し黙ってろよ!」
俺は頭をぶつける勢いでサキオを引き寄せ、耳元で怒鳴った。
サキオはびっくりしたような顔をして、口を真一文字につぐんだ。
ギャッコン グアッコ ガッコ ガ ガ ガ ガ……うぃん
その途端、ハナコも黙り込んでしまった。
「それで、すぃ……き……ってわけだ」
「あああ!? 聞こえねえよ!」
なんだってサキオはこんな騒音のなか喋りつづけるのだろう、黙って働いればいいものを。
このジェネレーターは、地下街の電気を作っている。もちろん裏の、非合法の街だ。あんまりボロいんで、常にどこかが故障して、常にどこかを修理しながら動かしている。つまり俺たちが面倒を見なきゃなんないってわけだ。
ジェネレーターには、「ハナコ」という名前がついている。俺がハナコを宥めすかして、かわいがるから、地下街は眠らない。そんな自負のもとで働いているのに、サキオはベラベラと喋り続ける。
「おい、ハナコの声がでかくてお前の声なんか聞こえやしねえんだ。少し黙ってろよ!」
俺は頭をぶつける勢いでサキオを引き寄せ、耳元で怒鳴った。
サキオはびっくりしたような顔をして、口を真一文字につぐんだ。
ギャッコン グアッコ ガッコ ガ ガ ガ ガ……うぃん
その途端、ハナコも黙り込んでしまった。
2008年5月27日火曜日
2008年5月26日月曜日
2008年5月25日日曜日
2008年5月23日金曜日
2008年5月22日木曜日
2008年5月21日水曜日
2008年5月20日火曜日
地球妖怪打ち上げ計画
かつて「妖怪」と呼ばれた謎の生き物たちの二割ほどが地球外生物だと判明して久しい。ならば、今度は我々地球人がどこぞの星へ出向き妖怪となり、異星人の暮らしに驚きと恐怖と可笑しみを提供しようではないか。
この「地球妖怪打ち上げ計画」の盛り上がりは急速に科学技術を発展させることとなった。これまで市民の宇宙旅行といえば宇宙ステーション滞在が主流だったが、誰もが異星に行けることが目標となったのである。
いよいよ異星行きが現実味を帯びてくると、地球人はどんな妖怪になるべきか、が話題になった。特にニホンでは議論が盛んである。
「ありのままの我々でも異星人は驚くに違いない」
「やはり、衣装に拘るべきだ。妖怪は見た目で恐がらせないといかんだろう」
「驚かすノウハウをいくつか身につけてから異星に行くべきだ」
「古来の妖怪、つまり我々をおどかしていた異星人から学ぼうではないか」
「異星人ではない妖怪も数多い。それらの妖怪にも注目し、利用しよう」
「ニホンならでは、の妖怪がいい」
いまや空前の江戸文化ブームだ。異星にぜひ持っていきたいと、見様見真似で提灯や唐笠を作る者も現れている。
「異星旅行のお供に提灯お化けは如何?」
『未来妖怪』投稿作
この「地球妖怪打ち上げ計画」の盛り上がりは急速に科学技術を発展させることとなった。これまで市民の宇宙旅行といえば宇宙ステーション滞在が主流だったが、誰もが異星に行けることが目標となったのである。
いよいよ異星行きが現実味を帯びてくると、地球人はどんな妖怪になるべきか、が話題になった。特にニホンでは議論が盛んである。
「ありのままの我々でも異星人は驚くに違いない」
「やはり、衣装に拘るべきだ。妖怪は見た目で恐がらせないといかんだろう」
「驚かすノウハウをいくつか身につけてから異星に行くべきだ」
「古来の妖怪、つまり我々をおどかしていた異星人から学ぼうではないか」
「異星人ではない妖怪も数多い。それらの妖怪にも注目し、利用しよう」
「ニホンならでは、の妖怪がいい」
いまや空前の江戸文化ブームだ。異星にぜひ持っていきたいと、見様見真似で提灯や唐笠を作る者も現れている。
「異星旅行のお供に提灯お化けは如何?」
『未来妖怪』投稿作
屍拾いの呟き
アトミック・ドロタボー、かつて「泥田坊」と呼ばれたものの亜種だろう、と推測されている生物の屍を、俺たちは防護服を着て回収する。
数十年前から、強い放射線に汚染された土壌や海が急速に増えている。二十世紀から二十一世紀頃の人間が、知識や技術が不十分なうちから核を利用した影響だ。二十世紀人が厳重に包み地下深く処理したつもりの放射性廃棄物が、今頃になって漏れ出ているらしいのだ。
以前は良質な米を作っていたこの地域も放射性汚泥地帯となった。そして、泥田坊に似た異形のものが次から次へと溢れ出るようになったのだ。泥から這い出た奴等は、子を生そうとしているのか女を求めて股間のものを奮い立たせながら彷徨うのだが、何故かすぐに事切れてしまう。そこをすかさず回収するのが俺たちの仕事だ。死んだものを放っておくとたちまち腐り、破裂し、多量の放射線が飛び散るからだ。つまり、アトミック・ドロタボーは土壌から排出された放射能の塊でもあるのだ。
俺もこの仕事を始めてずいぶん長くなった。アトミック・ドロタボーが出なくなり、ここで作られる米が再び食えるようになるのを夢見て、今宵も屍を拾う。
『未来妖怪』投稿作
数十年前から、強い放射線に汚染された土壌や海が急速に増えている。二十世紀から二十一世紀頃の人間が、知識や技術が不十分なうちから核を利用した影響だ。二十世紀人が厳重に包み地下深く処理したつもりの放射性廃棄物が、今頃になって漏れ出ているらしいのだ。
以前は良質な米を作っていたこの地域も放射性汚泥地帯となった。そして、泥田坊に似た異形のものが次から次へと溢れ出るようになったのだ。泥から這い出た奴等は、子を生そうとしているのか女を求めて股間のものを奮い立たせながら彷徨うのだが、何故かすぐに事切れてしまう。そこをすかさず回収するのが俺たちの仕事だ。死んだものを放っておくとたちまち腐り、破裂し、多量の放射線が飛び散るからだ。つまり、アトミック・ドロタボーは土壌から排出された放射能の塊でもあるのだ。
俺もこの仕事を始めてずいぶん長くなった。アトミック・ドロタボーが出なくなり、ここで作られる米が再び食えるようになるのを夢見て、今宵も屍を拾う。
『未来妖怪』投稿作
塵吸乃樹
高濃度汚染地区Q、旧町名を葛宇という。ここは地形的、気象的に大量のエアロゾルが停留しやすく、とうの昔に人の居住は禁止された。晴天でも靄がかかり、人が無防備に近づけば呼吸困難、眩暈、嘔吐など重篤な症状を起こす。無論、植物も枯れてしまう。
そこで、エアロゾルを吸着しても枯れず、大気を清浄化させる樹木が開発された。クスノキを主体に交配合や薬物投与を重ね、簡素な知能を備えた人造樹木は、まだその効果が実証される前から「塵吸乃樹」と神木のように崇められ、早速旧葛宇町を埋め尽くすように植えられた。
人造樹木は、人々の期待に応える。だが、エアロゾルの排出が減ることのない国では、いくら樹木が努力しようと高濃度汚染地区Qの名が変更されることはなかった。結局、人々は「塵吸乃樹」を忘れていった。
旧葛宇町の樹木たちは、短い寿命を過ぎてもなお靄の中で生き続ける。与えられた僅かな知能も、大気を清めるはずの特殊樟脳も極度に老化した。
高濃度汚染地区Qに近づくと、饐えた匂いが漂い、いないはずの子供たちがわらべ歌を歌う声が聞こえるという。
『未来妖怪』投稿作
そこで、エアロゾルを吸着しても枯れず、大気を清浄化させる樹木が開発された。クスノキを主体に交配合や薬物投与を重ね、簡素な知能を備えた人造樹木は、まだその効果が実証される前から「塵吸乃樹」と神木のように崇められ、早速旧葛宇町を埋め尽くすように植えられた。
人造樹木は、人々の期待に応える。だが、エアロゾルの排出が減ることのない国では、いくら樹木が努力しようと高濃度汚染地区Qの名が変更されることはなかった。結局、人々は「塵吸乃樹」を忘れていった。
旧葛宇町の樹木たちは、短い寿命を過ぎてもなお靄の中で生き続ける。与えられた僅かな知能も、大気を清めるはずの特殊樟脳も極度に老化した。
高濃度汚染地区Qに近づくと、饐えた匂いが漂い、いないはずの子供たちがわらべ歌を歌う声が聞こえるという。
『未来妖怪』投稿作
2008年5月19日月曜日
2008年5月16日金曜日
きみはいってしまうけれども
きみの向けた矢の先は、まんまるの月だった。
「届かないよ」
とぼくはいうけれど、きみには聞こえていない。
月に帰ったきみのお姫さまから、ぼくたちの姿は見えているのだろうか。見えていたとしても、愚かな男と笑っているに違いない。
「止せよ」
違う世界の人なんだからと続けようとしてやめた。もう散々いわれたことだろうから。
ふいにきみは矢を上から下へに向け変えた。水面に映る満月。
きみはいってしまうけれども、ゆらりと揺れるだけだよ……。
********************
500文字の心臓 第76回タイトル競作投稿作
○4 △2
「届かないよ」
とぼくはいうけれど、きみには聞こえていない。
月に帰ったきみのお姫さまから、ぼくたちの姿は見えているのだろうか。見えていたとしても、愚かな男と笑っているに違いない。
「止せよ」
違う世界の人なんだからと続けようとしてやめた。もう散々いわれたことだろうから。
ふいにきみは矢を上から下へに向け変えた。水面に映る満月。
きみはいってしまうけれども、ゆらりと揺れるだけだよ……。
********************
500文字の心臓 第76回タイトル競作投稿作
○4 △2
2008年5月15日木曜日
2008年5月14日水曜日
白い手袋を
叔父は私と手をつなぐとき、必ず白い手袋をする。
若くして私を産んだ母の末弟である叔父は、私と十しか年が離れていない。私は叔父を「おじさん」と呼んだことがなかった。
「ねぇ、どうして手袋をするの?私の手が汚いから?」
と聞くと叔父は困ったような顔をして、汚いのは僕のほうだ、と呟いた。
叔父の手は汚くなんてなかった。指の長い、優しい手だ。
私はちゃんと手を繋ぎたかった。そして、私はその瞬間を待った。
トイレから出てきて、手袋をはめようとするのを遮り、私は叔父の手を強く握った。
それは、人の手を握っている感触ではなかった。見た目は、人間の手なのに、ぬるぬるとした別の生物の感触だった。けれども、私はその手を離さない。特に理由はない。気持ちよかっただけ。
若くして私を産んだ母の末弟である叔父は、私と十しか年が離れていない。私は叔父を「おじさん」と呼んだことがなかった。
「ねぇ、どうして手袋をするの?私の手が汚いから?」
と聞くと叔父は困ったような顔をして、汚いのは僕のほうだ、と呟いた。
叔父の手は汚くなんてなかった。指の長い、優しい手だ。
私はちゃんと手を繋ぎたかった。そして、私はその瞬間を待った。
トイレから出てきて、手袋をはめようとするのを遮り、私は叔父の手を強く握った。
それは、人の手を握っている感触ではなかった。見た目は、人間の手なのに、ぬるぬるとした別の生物の感触だった。けれども、私はその手を離さない。特に理由はない。気持ちよかっただけ。