水たまりの周りを歩いています。今、私は蟻なので、一周するのはとても時間がかかります。
水たまりの縁のぎりぎりを歩きます。時々風が吹くと波立って足を取られそうになります。そこをさっと避けるととても格好よく俊敏に動けたと満足します。
お日様が出ていますから、段々と水たまりは小さくなっていきます。それでも私は縁に沿って歩きます。
とうとう水たまりはなくなってしまいました。
私は水たまりの中心だったところに立っています。もう蟻ではありません。ペロペロキャンディが食べたいです。
2008年4月29日火曜日
2008年4月25日金曜日
Moonman from Rainbow
ザアザアと雨が降っているというのに、虹が出てきた。
あな珍しや、と思っていたら虹をくぐって月の人が降りてきた。
「あなたに『こんにちは』を言う日が来るとは」
と挨拶すると
「雨降り虹のおかげです」
と月の人は言い、続けて
「では、虹が消えそうなので帰ります」
と去ってしまった。
何のために降りてきたのだ、月の人。
あな珍しや、と思っていたら虹をくぐって月の人が降りてきた。
「あなたに『こんにちは』を言う日が来るとは」
と挨拶すると
「雨降り虹のおかげです」
と月の人は言い、続けて
「では、虹が消えそうなので帰ります」
と去ってしまった。
何のために降りてきたのだ、月の人。
2008年4月23日水曜日
2008年4月21日月曜日
2008年4月20日日曜日
ぬかるみを歩く
子供のころ、家の近くの雑木林の中に、沼があった。
ある日、ザリガニを釣りに行くと沼の上を歩く子供がいた。ぼんやりと眺めていると
「一緒にやろう」
と言われ、慌て裸足になった。
大人たちから沼には入るなと言われていたが、沈まないなら怖くはない。
沼は歩きやすくも歩きにくくもない、ただぬかるみを歩くだけだ。
時々、ちいさな硬いものが足に触るのでいちいち拾い上げてポケットにしまった。
ただ沼を歩いただけなのに、夢中になっていたらしい。日が傾き始め、きれいなままのバケツとザリガニを釣りの竿を持ち、子供にわかれを告げた。
あの時、沼で拾った硬いものは今も机の上にある。
洗いもせず乾いた泥がこびりついたままだが、人間の歯だ。大人の臼歯だ。
20年近く経って初めて気が付いたのは、生まれて初めて親知らずを抜いたから。
麻酔の切れ掛けた痛む頬を押さえつつ、あの沼に歯を返したい衝動に駆られている。
ある日、ザリガニを釣りに行くと沼の上を歩く子供がいた。ぼんやりと眺めていると
「一緒にやろう」
と言われ、慌て裸足になった。
大人たちから沼には入るなと言われていたが、沈まないなら怖くはない。
沼は歩きやすくも歩きにくくもない、ただぬかるみを歩くだけだ。
時々、ちいさな硬いものが足に触るのでいちいち拾い上げてポケットにしまった。
ただ沼を歩いただけなのに、夢中になっていたらしい。日が傾き始め、きれいなままのバケツとザリガニを釣りの竿を持ち、子供にわかれを告げた。
あの時、沼で拾った硬いものは今も机の上にある。
洗いもせず乾いた泥がこびりついたままだが、人間の歯だ。大人の臼歯だ。
20年近く経って初めて気が付いたのは、生まれて初めて親知らずを抜いたから。
麻酔の切れ掛けた痛む頬を押さえつつ、あの沼に歯を返したい衝動に駆られている。
2008年4月19日土曜日
裏の公園
公園の水飲み場の水を出しながら、目を閉じてくるくるとターン、四回転。
目を開けるとそこは、さっきまでの明るい公園ではない。
空は暗く、緋色の月が出ている。
遊具はまったく同じだけれども、ブランコも滑り台も今にも崩れそうに錆びている。
だけど僕にはこちらの公園が居心地よい。
遊んでいる子供はいないけれど、腐ったベンチにいつも座っているおばあさんがいる。
僕は錆びたブランコに乗る。立ち乗りだ。
漕ぐたびにガリガリギーコと錆びが削れて赤茶の粉が舞う。
999回漕いだらお仕舞い。
水飲み場の蛇口をひねり、鉄の味がする赤っぽい水を飲む。もとの公園だ。
飲み干して顔をあげると、しっぽをベンチにぐるぐると巻き付けた猫と目が会う。あっちの公園のおばあさんによく似ていると思う。
時々、猫の上に座ってる人がいるから、注意しようかどうか迷う。なぜ猫を避けて座らないのか、僕には理解できない。
目を開けるとそこは、さっきまでの明るい公園ではない。
空は暗く、緋色の月が出ている。
遊具はまったく同じだけれども、ブランコも滑り台も今にも崩れそうに錆びている。
だけど僕にはこちらの公園が居心地よい。
遊んでいる子供はいないけれど、腐ったベンチにいつも座っているおばあさんがいる。
僕は錆びたブランコに乗る。立ち乗りだ。
漕ぐたびにガリガリギーコと錆びが削れて赤茶の粉が舞う。
999回漕いだらお仕舞い。
水飲み場の蛇口をひねり、鉄の味がする赤っぽい水を飲む。もとの公園だ。
飲み干して顔をあげると、しっぽをベンチにぐるぐると巻き付けた猫と目が会う。あっちの公園のおばあさんによく似ていると思う。
時々、猫の上に座ってる人がいるから、注意しようかどうか迷う。なぜ猫を避けて座らないのか、僕には理解できない。
2008年4月18日金曜日
2008年4月16日水曜日
反対側の人
あなたが赤いから、私は緑になるよ、と彼女は言った。僕の一体何が赤いというのだろう。
彼女は、いつも僕と反対であろうとする。
僕が暖かいと言えば、彼女は寒いと言った。
嬉しいと言えば悲しい。
プラスと言えばマイナス。そう、彼女はいつだってフラットな状態を望んだのだ。二人が合わさってゼロになることを。それが恋人同士のあるべき姿だから、と。
でも、僕が赤くて彼女が緑はどうしてもわからなかった。赤と緑、補色関係。たしかに絵の具を合わせれば黒くなるけれど、それは何を指す?
彼女の言ったことは本当だと、今わかった。
さっき料理をしていた彼女が指を舐めて出てきた。包丁で切ったという切り傷からは緑色の液体が溢れ出ているのだ。
僕は何も言わずに絆創膏を貼る。
彼女は、いつも僕と反対であろうとする。
僕が暖かいと言えば、彼女は寒いと言った。
嬉しいと言えば悲しい。
プラスと言えばマイナス。そう、彼女はいつだってフラットな状態を望んだのだ。二人が合わさってゼロになることを。それが恋人同士のあるべき姿だから、と。
でも、僕が赤くて彼女が緑はどうしてもわからなかった。赤と緑、補色関係。たしかに絵の具を合わせれば黒くなるけれど、それは何を指す?
彼女の言ったことは本当だと、今わかった。
さっき料理をしていた彼女が指を舐めて出てきた。包丁で切ったという切り傷からは緑色の液体が溢れ出ているのだ。
僕は何も言わずに絆創膏を貼る。
2008年4月15日火曜日
梢の先に消える
通学途中、けやきの子と遊ぶのが日課だった。
けやきはかなり立派だったと思うけれど、僕が子供だったから大きく見えたのかもしれない。
けやきの子は毎朝、僕のことを待っていた。角を曲がってけやきが現われても姿は見えないのに、けやきの前までくるとずっと前からそこにいたという風情で幹に寄りかかっていた。裸で長い髪の小さな女の子。そして爪先で根元の土をいじりながら「おはよ」と言うのだ。
僕たちは幹の裏側に廻って、お互いにひとしきりちょっかいを出しあった。ほんの5分かそこらの短い時間。ときにはキスの真似事もした。
小学校の卒業式の朝も、僕たちの遊びは変わらなかった。けれども、昨日までのように学校に行く僕を見送ってはくれなかった。
けやきの子は、するすると木に登り、一番太い枝の先端にまたがり「じゃあね」と言うと、音もなく消えた。
けやきはかなり立派だったと思うけれど、僕が子供だったから大きく見えたのかもしれない。
けやきの子は毎朝、僕のことを待っていた。角を曲がってけやきが現われても姿は見えないのに、けやきの前までくるとずっと前からそこにいたという風情で幹に寄りかかっていた。裸で長い髪の小さな女の子。そして爪先で根元の土をいじりながら「おはよ」と言うのだ。
僕たちは幹の裏側に廻って、お互いにひとしきりちょっかいを出しあった。ほんの5分かそこらの短い時間。ときにはキスの真似事もした。
小学校の卒業式の朝も、僕たちの遊びは変わらなかった。けれども、昨日までのように学校に行く僕を見送ってはくれなかった。
けやきの子は、するすると木に登り、一番太い枝の先端にまたがり「じゃあね」と言うと、音もなく消えた。
2008年4月12日土曜日
2008年4月11日金曜日
誰かのため息
声をあげて笑うと、耳のすぐ側で女のため息を感じるようになった。吐息が耳にくすぐったくて、というより艶めかしくて、慌てて振り向くのだけれど、誰もいない。
もしかしたら、幽霊にでも憑かれたのかもしれない、と霊感があるという友人の友人にも相談したが、幽霊のユの字もないと断言された。
何も憑いていないと言われ、ため息の謎は深まったが、安心したのも確かだ。いつの間にか、ぼくはため息を楽しむようになった。
前は全く見なかったお笑い番組を毎晩見る。
夜な夜な薄暗い部屋で、ゲラゲラと笑いながら、切ない吐息を耳に感じて身悶える。ぼくが大声で笑えば笑うほど、ため息は切なく艶を増すのだ。
わかってる。幽霊に取り憑かれているより、質が悪い。
もしかしたら、幽霊にでも憑かれたのかもしれない、と霊感があるという友人の友人にも相談したが、幽霊のユの字もないと断言された。
何も憑いていないと言われ、ため息の謎は深まったが、安心したのも確かだ。いつの間にか、ぼくはため息を楽しむようになった。
前は全く見なかったお笑い番組を毎晩見る。
夜な夜な薄暗い部屋で、ゲラゲラと笑いながら、切ない吐息を耳に感じて身悶える。ぼくが大声で笑えば笑うほど、ため息は切なく艶を増すのだ。
わかってる。幽霊に取り憑かれているより、質が悪い。
2008年4月9日水曜日
2008年4月8日火曜日
雪に埋もれて
道にしゃがみこんでいました。
家に帰りたくなかったわけではなく、帰れなかったわけでもなく、そうしていることが心地よく思えたからです。
雪が降っていました。不思議と寒さは感じませんでした。膝を抱えて、ただ空を見ていました。電線と、こちらに向かって落ちてくる夥しい雪が見えました。雪は真っ白なのに、空にいるときは黒く見えます。
私の肩や頭に雪が降り積もります。どういうわけか大変な大雪です。お尻と足首が埋まりはじめました。冷たくはありません。むしろあたたかいのです。
雪が私の身体を擽っているのだ、とわかりました。最初はおずおずと、次第に大胆に。擽るといっても、笑って身をよじるようなのとは、少し違いました。このように擽ることができるのは、雪だけかもしれません。
雪は確実に積もり、腰まで埋まりました。
タイツを履いていたけれど、雪にはそんなことは関係ないようでした。
下半身はすっかり雪に包まれ、私に触れるすべての雪が私を擽ります。
もっと大雪になればよいのに、と空を見上げます。早く来て、と空に向かって呟きました。右の太股がきゅっと擽られました。
もっと、と私はまた呟きました。胸まで埋まったら、きっと天にも昇るほど気持ちがいいと思うのです。
家に帰りたくなかったわけではなく、帰れなかったわけでもなく、そうしていることが心地よく思えたからです。
雪が降っていました。不思議と寒さは感じませんでした。膝を抱えて、ただ空を見ていました。電線と、こちらに向かって落ちてくる夥しい雪が見えました。雪は真っ白なのに、空にいるときは黒く見えます。
私の肩や頭に雪が降り積もります。どういうわけか大変な大雪です。お尻と足首が埋まりはじめました。冷たくはありません。むしろあたたかいのです。
雪が私の身体を擽っているのだ、とわかりました。最初はおずおずと、次第に大胆に。擽るといっても、笑って身をよじるようなのとは、少し違いました。このように擽ることができるのは、雪だけかもしれません。
雪は確実に積もり、腰まで埋まりました。
タイツを履いていたけれど、雪にはそんなことは関係ないようでした。
下半身はすっかり雪に包まれ、私に触れるすべての雪が私を擽ります。
もっと大雪になればよいのに、と空を見上げます。早く来て、と空に向かって呟きました。右の太股がきゅっと擽られました。
もっと、と私はまた呟きました。胸まで埋まったら、きっと天にも昇るほど気持ちがいいと思うのです。
2008年4月7日月曜日
聞き耳
引っ越して二日目の夜。
まだ荷物も片付かない中で睦みあっていると、兎のような耳を持った小さな小さな赤鬼が、枕元で胡坐を掻いていた。
しれっとしながらも、彼女の吐息に合わせて、盛んに耳を動かしている。
コトに夢中になっていたら、いつの間にか姿が見えなくなった。
翌朝、彼女の喘ぎ声で目を覚ます。何事かと思ったが、隣で彼女はぐっすり眠っている。
昨晩、聞き耳をたてていたあの兎耳の赤鬼の仕業だろうと見当をつける。見回すとやはり。
ちょうど彼女の腰のあたり、布団の上にどかりと胡坐を掻いて、昨晩の女の嬌声を再生しているのだった。
「なあ、今夜は上の階の部屋へ行ったらどうだ?」
と兎耳の赤鬼に言う。
「そして明日の朝、聞かせてくれよ」
上の夫婦も新婚らしいから。
赤鬼は、俺の声にはぴくりとも耳を動かさない。
まだ荷物も片付かない中で睦みあっていると、兎のような耳を持った小さな小さな赤鬼が、枕元で胡坐を掻いていた。
しれっとしながらも、彼女の吐息に合わせて、盛んに耳を動かしている。
コトに夢中になっていたら、いつの間にか姿が見えなくなった。
翌朝、彼女の喘ぎ声で目を覚ます。何事かと思ったが、隣で彼女はぐっすり眠っている。
昨晩、聞き耳をたてていたあの兎耳の赤鬼の仕業だろうと見当をつける。見回すとやはり。
ちょうど彼女の腰のあたり、布団の上にどかりと胡坐を掻いて、昨晩の女の嬌声を再生しているのだった。
「なあ、今夜は上の階の部屋へ行ったらどうだ?」
と兎耳の赤鬼に言う。
「そして明日の朝、聞かせてくれよ」
上の夫婦も新婚らしいから。
赤鬼は、俺の声にはぴくりとも耳を動かさない。
2008年4月6日日曜日
2008年4月4日金曜日
2008年4月3日木曜日
2008年4月1日火曜日
銀天街の神様
月齢と日の出日の入時刻を、担当者の名前とともに黒板に記入する。月齢や時刻を正確にわかる者は、閉ざされたこの銀天街では俺一人だ。
今日の担当は、トラキチ。目がギョロりとしているジィさんである。銀天街にやってくる前は、盗賊をしていたという噂だ。安物の重たい機関銃でもぶっぱなしていたのか、年老いた今はすっかり耳をやられている。今は四日に一度、ここにやってきて「太陽と月の上げ下ろしと、時報の鐘を撞く」のが奴の仕事だ。
「月」は月齢に合わせて用意してある。日の入り時刻丁度に「太陽」を外し「今夜の月」をあげる。銀天街の空、巨大アーケードの天井に。
トラキチは年寄りとはいえ腕力があり、おまけに背が高いから仕事がスムーズだと評判だ。耳が遠いのも、銀天街に響き渡る巨大な鐘を撞くのには好都合だ。毎日の担当者が皆トラキチのように有能だと、俺も少しは楽なのだが……。
俺か?銀天街の太陽と月と時刻を司る俺は「神様」と呼ばれている。親が付けた名前は、もう忘れた。
********************
500文字の心臓 第75回タイトル競作投稿作
○1
今日の担当は、トラキチ。目がギョロりとしているジィさんである。銀天街にやってくる前は、盗賊をしていたという噂だ。安物の重たい機関銃でもぶっぱなしていたのか、年老いた今はすっかり耳をやられている。今は四日に一度、ここにやってきて「太陽と月の上げ下ろしと、時報の鐘を撞く」のが奴の仕事だ。
「月」は月齢に合わせて用意してある。日の入り時刻丁度に「太陽」を外し「今夜の月」をあげる。銀天街の空、巨大アーケードの天井に。
トラキチは年寄りとはいえ腕力があり、おまけに背が高いから仕事がスムーズだと評判だ。耳が遠いのも、銀天街に響き渡る巨大な鐘を撞くのには好都合だ。毎日の担当者が皆トラキチのように有能だと、俺も少しは楽なのだが……。
俺か?銀天街の太陽と月と時刻を司る俺は「神様」と呼ばれている。親が付けた名前は、もう忘れた。
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500文字の心臓 第75回タイトル競作投稿作
○1