「今日も暑いなあ、モンドくん」
「暑いですねぇ、博士」
レオナルド・ションヴォリ氏と主水くんは暑さを持て余していた。
「バナナミルクが飲みたい」
「またですか、博士。22分17秒前に飲んだばかりですのに」
「バナナミルクが飲みたい」
「わかりました」
主水くんは仕方なくキッチンに向かい、12分36秒戻らなかった。
「ほーい、モンドくん。バナナミルクはまだかね!」
「はいはい、ただいま」
主水くんは、大量のバナナミルクが入った瓶と長い長いストローを持ってきた。
「はい、博士。おまたせしました」
長いストローを挿した瓶はションヴォリ氏のスボンのポケットに入れられた。
黄色いスボンは瓶の重みでビヨンとだらしなく伸びてしまったがションヴォリ氏は気にしない。
「どうでしょう?博士」
「大変結構」
ションヴォリ氏は長い長いストローをくわえて、チュウゥとバナナミルクをすすった。
2004年8月31日火曜日
2004年8月29日日曜日
Dancer In The Pocket
「八ヶ月ぶりになるかな、元気だった?」
ぼくはオーバーのポケットにそっと左手を入れて呼び掛けた。
舞姫の動きは、まだ眠たいのか、けだるそうだ。
その動きはぼくの手に優しく伝わる。
ぼくはこの舞姫を見たことがない。
ぼくの手の周りを時に激しく、時にゆったり舞う。
ぼくは何度も掴もうと試みたが、小さな小さな舞姫は見透かしたように指の間を擦り抜けてしまう。
手に感じる動きで舞姫が目覚めてきたのがわかる。
はらりひらり、と舞姫の衣の裾がぼくの指を掠めていく。薬指、人差し指、小指……。
だんだんと左手が熱を帯びてきた。
今年も悩ましい冬がやってくる。
ぼくはオーバーのポケットにそっと左手を入れて呼び掛けた。
舞姫の動きは、まだ眠たいのか、けだるそうだ。
その動きはぼくの手に優しく伝わる。
ぼくはこの舞姫を見たことがない。
ぼくの手の周りを時に激しく、時にゆったり舞う。
ぼくは何度も掴もうと試みたが、小さな小さな舞姫は見透かしたように指の間を擦り抜けてしまう。
手に感じる動きで舞姫が目覚めてきたのがわかる。
はらりひらり、と舞姫の衣の裾がぼくの指を掠めていく。薬指、人差し指、小指……。
だんだんと左手が熱を帯びてきた。
今年も悩ましい冬がやってくる。
2004年8月28日土曜日
2004年8月26日木曜日
2004年8月25日水曜日
ポケットアート
「いいものを見せてあげるよ」
とあなたが言う。
「あら、何かしら」
とわたしは聞く。
「世界の名画」
とあなたは言う。
「ミュージアムに行くお金なんてないでしょう」
とわたしが笑う。
「ゴーギャン」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
「まあ!」
「セザンヌ」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
「まあ!」
「次は誰の作品が見たい?」
とあなたが尋ねる。
「ピカソ」
とわたしが答える。
「あーダメダメ。今日はポールとしか契約していないんだ」
とあなたが言う。
「クレー」
とわたしが言う。
「パウル・クレー……オッケー、問題ない」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
とあなたが言う。
「あら、何かしら」
とわたしは聞く。
「世界の名画」
とあなたは言う。
「ミュージアムに行くお金なんてないでしょう」
とわたしが笑う。
「ゴーギャン」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
「まあ!」
「セザンヌ」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
「まあ!」
「次は誰の作品が見たい?」
とあなたが尋ねる。
「ピカソ」
とわたしが答える。
「あーダメダメ。今日はポールとしか契約していないんだ」
とあなたが言う。
「クレー」
とわたしが言う。
「パウル・クレー……オッケー、問題ない」
あなたはズボンのポケットから絵を引っ張り出して広げる。
2004年8月23日月曜日
シニザマ
「お昼にしましょう!」
先生の掛け声を聞くや否や、各々好きな場所でお弁当を広げはじめる。
わたしもちょっと大きな石に座り場所を見つけてリュックを降ろした。
あれ?
リュックの左脇にある小さなポケットが膨らんでいる。
ここにはちり紙しか入れていないはずなのに。
「あ゛~窮屈であった!」
「誰?いつからここにいるの?」
「見ればわかるだろう、鬼だ」
「でも、小さい…」
「鬼にもいろいろいるのだ。人間もそうであるように。」
鬼は死に場所を探しに来たのだ、と言った。
鬼は若く見えた。角は立派だし、赤い肌はスベスベだ。それでも寿命なのだという。
運んでいただき有り難う存じます、と最後に深々と頭を下げ歩きはじめた。
鬼は、学級委員の田口くんに踏まれて死んだ。
わたしは絶叫した。でも、声にならなかった。
先生の掛け声を聞くや否や、各々好きな場所でお弁当を広げはじめる。
わたしもちょっと大きな石に座り場所を見つけてリュックを降ろした。
あれ?
リュックの左脇にある小さなポケットが膨らんでいる。
ここにはちり紙しか入れていないはずなのに。
「あ゛~窮屈であった!」
「誰?いつからここにいるの?」
「見ればわかるだろう、鬼だ」
「でも、小さい…」
「鬼にもいろいろいるのだ。人間もそうであるように。」
鬼は死に場所を探しに来たのだ、と言った。
鬼は若く見えた。角は立派だし、赤い肌はスベスベだ。それでも寿命なのだという。
運んでいただき有り難う存じます、と最後に深々と頭を下げ歩きはじめた。
鬼は、学級委員の田口くんに踏まれて死んだ。
わたしは絶叫した。でも、声にならなかった。
2004年8月21日土曜日
2004年8月20日金曜日
かっぽう着
それはジュンの家から帰る途中だった。
少し遅くなって、早足で家へ向かっていた。
突然、足がすくみ、一歩も動けなくなった。
夕暮れをすぎた町は、なにもかもが違って見えた。
車の音も、遠くで鳴っている踏切の音も、作り物みたいに聞こえた。
家で待っているのは、ぼくの知っているお母さんではないのではないか。
ココハボクノシラナイマチダ
そう思ったら、動けなくなった。
一体どれくらい立ち尽くしていたのだろう。
何の前触れもなく真っ白なかっぽう着を着たおばさんが現れた。
「おやまあ」
ぼくは逃げ出したかった。
誰にも話し掛けられたくなかった。
おばさんはかっぽう着のポケットからみどり色のビー玉を出した。
「これをあげるから早く帰んなさい」
ビー玉を渡されたぼくは、弾けたように走り出した。
少し遅くなって、早足で家へ向かっていた。
突然、足がすくみ、一歩も動けなくなった。
夕暮れをすぎた町は、なにもかもが違って見えた。
車の音も、遠くで鳴っている踏切の音も、作り物みたいに聞こえた。
家で待っているのは、ぼくの知っているお母さんではないのではないか。
ココハボクノシラナイマチダ
そう思ったら、動けなくなった。
一体どれくらい立ち尽くしていたのだろう。
何の前触れもなく真っ白なかっぽう着を着たおばさんが現れた。
「おやまあ」
ぼくは逃げ出したかった。
誰にも話し掛けられたくなかった。
おばさんはかっぽう着のポケットからみどり色のビー玉を出した。
「これをあげるから早く帰んなさい」
ビー玉を渡されたぼくは、弾けたように走り出した。
2004年8月18日水曜日
2004年8月16日月曜日
2004年8月14日土曜日
2004年8月13日金曜日
父ちゃんと遊ぼう!
ケンのズボンはビックリ箱だ、と彼のお母さんのアキコさんは思う。
もうじき七歳になるケンくんは毎日ズボンのポケットにおみやげを入れて帰る。
それを翌朝洗濯するアキコさんは、いつも驚きっぱなしだ。
きのうはトカゲの死骸、おとといはセミの抜け殻。
干からびた犬のフンや、果肉のついたままの銀杏が入っていたときには閉口したものだ。
「さぁて、今日は何かな~」
アキコさんはケンくんの半ズボンのポケットを探る。
「あら!」
アキコさんはケンくんを呼んだ。
「これ、どうしたの?」
「きのういっしょにあそんだ子にもらった。オレの名札もあげたんだ。ゆうじょうのしるし、だって」
アキコさんは夫の名前の書かれた名札を持ったまま押し入れをさぐった。
夫のタカシさんの子供のころの品物が入った段ボール箱を引っ張り出す。
「あった、あった。ケン!見てごらん!ほら、ケンの名札だよ」
ケンくんは目を白黒させるばかり。
もうじき七歳になるケンくんは毎日ズボンのポケットにおみやげを入れて帰る。
それを翌朝洗濯するアキコさんは、いつも驚きっぱなしだ。
きのうはトカゲの死骸、おとといはセミの抜け殻。
干からびた犬のフンや、果肉のついたままの銀杏が入っていたときには閉口したものだ。
「さぁて、今日は何かな~」
アキコさんはケンくんの半ズボンのポケットを探る。
「あら!」
アキコさんはケンくんを呼んだ。
「これ、どうしたの?」
「きのういっしょにあそんだ子にもらった。オレの名札もあげたんだ。ゆうじょうのしるし、だって」
アキコさんは夫の名前の書かれた名札を持ったまま押し入れをさぐった。
夫のタカシさんの子供のころの品物が入った段ボール箱を引っ張り出す。
「あった、あった。ケン!見てごらん!ほら、ケンの名札だよ」
ケンくんは目を白黒させるばかり。
2004年8月12日木曜日
2004年8月10日火曜日
2004年8月9日月曜日
2004年8月8日日曜日
2004年8月6日金曜日
不思議を不思議と思わない不思議
ずんぐりむっくりで、あるところは茶色く、またある部分は緑色の掃部くんはレオナルド・ションヴォリ氏のおともだち。
耳はダランと垂れ下がり、鼻はもわもわでまんまるい。
太く長いしっぽを引きずって歩く姿はションヴォリ氏の笑いを誘う。
体のあちこちについている十二個のポケットには、いつもチョコレートやキャンディーやビスケットでいっぱいだ。
どうしてポケットが十二あって、チョコレートやキャンディーやビスケットが入っているのか、だれも知らないし、掃部くんもわからない。
でも掃部くんはそれをちっとも不思議に思っていないから不思議だ。
耳はダランと垂れ下がり、鼻はもわもわでまんまるい。
太く長いしっぽを引きずって歩く姿はションヴォリ氏の笑いを誘う。
体のあちこちについている十二個のポケットには、いつもチョコレートやキャンディーやビスケットでいっぱいだ。
どうしてポケットが十二あって、チョコレートやキャンディーやビスケットが入っているのか、だれも知らないし、掃部くんもわからない。
でも掃部くんはそれをちっとも不思議に思っていないから不思議だ。
2004年8月5日木曜日
2004年8月3日火曜日
2004年8月2日月曜日
白いワンピースのご婦人でした
「恐れ入りますが、あなたのポケットに入ってもかまいませんか?」
「結構ですよ。どちらになさいますか?」
「では……右の胸のポケットでお願いします」
「よろしゅうございます。あまり動かないでくださいませね。こそばゆいですから」
「結構ですよ。どちらになさいますか?」
「では……右の胸のポケットでお願いします」
「よろしゅうございます。あまり動かないでくださいませね。こそばゆいですから」